691話 All fall down 01
【All fall down】
散らかった部屋。
心地良く散らかして。
それを楽しみ、心地良く過ごしてきた部屋。
───今はもう、ただの《ゴミ置き場》だ。
───この有様を見ても、何ひとつ感情が沸き起こらない。
視界に入る物全てを壁に投げつけ、破り捨て、踏み砕いて壊した。
その『作業』を始めてから、完全に終えるまで。
自分が僅か一言すら発さなかったのを憶えている。
怒りや、憎しみ。
恨みも悲しさも無い。
正気のまま、大切にしてきた《宝物》を手当り次第に破壊して。
数時間経過しても、後悔や喪失感は去来しない。
ただ、全てが失われただけ。
───偉い天使が約束した通り。
───殺戮は終わった。
《規格外品》と呼ばれた僕等が殺されることはなくなった。
本当にそうであると、慎重に観測し。
自身でも幾度と試し。
果ては出会った天使の口から直接、それを確かめて。
ついに僕は、世界各地のコミュニティに通達した。
”迫害の時代は終わった”
”もはや、怯え震える必要は無い”
”天使はもう、僕等を殺さないのだ”、と。
皆、涙を流して喜んだ。
たとえ、仲間を殺害された恨みは消えなくとも。
やっと死の恐怖から解放され平穏が訪れたことに歓喜し、喝采を上げて。
僕自身も、嬉しかった。
そうなるまでの経緯、舞台裏を知る身として、複雑な思いはあれども。
だが。
その祝福すべき《宣言》から、3日も経たず。
僕の友達は、全員死亡した。




