684話 天啓 04
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「何でよ!?」
聞き終わると同時、思わず叫んでしまった。
「どうして、そんな事になるの!?」
慌てて窓から身を乗り出し、『下』を見降ろせば。
月の裏側から貫通した視界の中。
地球の、とある国の、とある場所で。
確かに《それ》は、発生していた。
どう控えめに表現しても、大変な騒動になっていた。
「こんなに集まるなんて、一体何が原因で───!」
「それはやはり、日本という国の特殊性でしょうか」
思い切り動揺する私と対象的に、セイジの声は落ち着いている。
嫌味なくらい冷静で。
だからこそ、余計に頭に血が上ってしまう。
「これってもう、暴動の類でしょう!?」
「他者を攻撃したり、物品の破壊や盗難もありませんから、暴動ではないかと。
ただ、集会の許可は取っていないようですので、犯罪にはなりますが」
「──────」
夜の街に集結した、数千人規模の人間。
それぞれが《供物》を握り締め、天に掲げ。
ひたすらに繰り返すのは、『エールケン・ベリ』の合唱。
『レンダリア様!!』の絶叫。
ああ。
駄目だ。
とてもじゃないが、”自分とは何の関係もありません”、なんて言えない。
無視出来ない。
「これまでも、世界各地で『ひっそりとした集まり』はあったけれど!
流石にこの規模は、おかしいでしょう!
私の名前を出して騒ぐとか、迷惑千万よ!
ほ、ほら!
ポリスがやって来た!───逃げなさい、早くッ!!」
「いえ、心配は無用です。
日本ではこういう場合でも、いきなり催涙弾を撃ち込んだりはしません。
警棒で気絶するまで殴打される事もありません」
「えっ??そうなの??」
「それが、彼の国の『普通』です。
やや強引に解散させられるでしょうが、流血沙汰にまではならないかと」
「でも───そもそもの原因は何?
どういう切っ掛けでこんな、特大の魔女集会みたいな」
「発生場所は、インターネット上の某・有名掲示板。
引き金となったのは、ブルーレイディスクの発売でしょうか」
「??」
「スレッドを遡り、全て読みましたが。
『The Pain of Dry Bones』メモリアルBOX販売の告知が、発火点。
彼等は、自分達が愛するコンテンツが《いよいよもって完全に終わる》と知り。
押し殺していた感情を爆発させる他に、術が無かったのでしょう」
「───そうだとしても。
集合場所は、どうやって決めたの?
あれらが囲んでいる建物には、どういう意味があるの?」
「ああ、《都庁》の事ですか」
セイジが左手の指を顎に当てれば、カチャリ、と。
折り曲げたそれと同様に、肘や肩からも同じ音が響いた。
「何となく、ですね」
「え??」
「何となく。
目立つから皆も集まり易いだろう、と。
おそらくは、その程度の理由。
如何にも日本人らしい発想で」
「──────」
事も無げに返されたけれど。
現在、私の目に映っている光景。
混乱現場の熱量は、”その程度”なんかで済まされるものではない。
完全に、やり過ぎだ。
名を連呼されているこっちが赤面し、別の銀河系に移住したくなるくらいだ。




