680話 落ち着いてから死ぬ 06
「ヴァチカンの使者が帰って、すぐに。
レオナルド博士は、【計画】を実現する糸口を見つけたわ」
コーヒーカップに口を付け。
ちらり、と壁の時計を見てから続けるエイスリル。
「博士はね。
依頼された内容の、【人間及び悪魔への】という部分に目を付けたの」
「ん?」
「しかも、追加情報で、 ”人間には姿が見えず”とあったわよね?」
「ああ、そうだな」
「私が悪魔であると知っていて、敢えて聞いてはこなかったけれど。
博士の頭の中では、即座に大まかな指針が組み上がった。
”その【敵対的高等生命体】が、姿を隠す方法とは何か?”
”超常的な存在である悪魔から自身を隠すには、それなりの能力が必要だが”
”人間に対する隠蔽に、そこまでの警戒が必要だと彼等は思うだろうか?”
”単純に光の反射吸収を調整し、光学的に見えなくしているのでは?”、と。
そこを『突破口』として【計画】を進める事になったのよ」
「なるほど・・・《光学迷彩》、か」
アニメの知識からそれっぽい言葉を選び、もっともらしく頷いてみせる僕。
正解か不正解かは、どうでもいい。
カッコ良く聴こえ、カッコ良く思われたら、それでいいのだ。
「原理としては、正にそれね」
よしッ!
そうだろう、そうだろう!
実のところ、その《光学迷彩》の理屈が、これっぽっちも分からないけどな!
「博士達は、プライドを賭けているわ。
未知の生物であろうと、斬新な概念であろうと。
有形無形を問わず、存在するなら解き明かすのが『学者』というもの。
言葉にはしないけれど、思っているのよ。
”《宗教屋》め、よくも馬鹿にしてくれたな!”
”見てろ、阿鼻叫喚の技術でもって、何なら太陽でも閉じ込めてやる!”、と」
「何だよ、『阿鼻叫喚の技術』って。
また人類に・・・というか、特務に迷惑を掛けようってのか?」
「それくらいの意気込み、という事よ」
「・・・・・・」
「そして。
博士達の怒りはまだ、全然、少しも収まってないの。
ねえ、マーカス。
気にならないかしら?
どうしてこういう重要事項を話す役が、私に任されたのか。
一向に姿を見せない博士達は、現在何処で何をしているのか」
「さては、宴会の準備だな。
世界中から取り寄せた不味くて有名な料理を並べてる、真っ最中とか」
違うだろうとは思うが、一応言ってみた。
これはこれで、ハズレてほしいけどな。
「ああ、『食事』かー。
今からサンドイッチでも作ってあげるから、それをお腹に入れておいて?
一時間後にはもう、始まってしまうから」
「・・・何が?」
「───極限までキレちゃった博士達による、《報復攻撃》。
学会に未発表の、最先端で最異端な《研究発表会》よ。
二日間ぶっ通しで続くから、付き合ってあげてね?
最終的に、あなたは死ぬと思うけど」
「はあっ???」
「お願いだから、マーカス。
世界最高峰の学者による、行き過ぎた叡智の結晶を理解してあげて?
最終的に、死ぬと思うけど」
「ふざけんなッ!!!」
慌てて立ち上がり、スーツケースのハンドルを引いてドアまで突進!
「う、うおおおおッ!!・・・なっ・・・開かないッ!?」
「まあ、落ち着いて待っててね?
サンドイッチだけじゃ、足りないかもしれないから。
卵やベーコンとかも焼いてあげるわよ」
「要らないッ!!ここから出せッ!!」
「だーめ」
あ!
逃げやがった!
魔法のように消え・・・いや、そのまんま魔法か!
ちくしょおおおぉッ!!
これ、《とっておき》のクライマンでも無理なヤツだ!
完全に『対象外』だ!
予想される《地獄の発表会》の、『攻撃属性』が不明!
魔法じゃないのは確かだが、物理攻撃とも言い切れないし!
そもそも、『即死』じゃあない!
「ジワジワといたぶってくれる!フハハハ!」系には、効果が無いッ!
───それでも。
───僕は一縷の望みに縋り、ロザリオを握り締めた。
(おい、クライマンッ!!何とかならないのかッ!?)
”巻き込まないでよおぉ・・・頼むからあぁ!”
聴こえてきた中年男の泣き声は。
いつにも増して情け無くて、格段に汚かった───




