679話 落ち着いてから死ぬ 05
「【計画】のほうは、順調に進んでいるわ。
”現時点において問題無し”、と書いてもらって構わないと思う」
「順調、って・・・実際に【あれ】を捕獲可能なのか?」
「そう出来るように、鋭意研究中」
「いやいや。
多分だが、麻酔弾もテイザー銃も効きやしない相手だろ?
一体どうするつもりなんだ?」
「それでも何とかするのが、天才集団でしょ!」
自分の事のように得意気に言い放つエイスリルだが。
その表情はすぐ、『苦さ8割くらいの苦笑』で塗り潰された。
「ええとね───相当に煽られた、というか。
焚き付けられた、というかね」
「ん?」
「この話が持ち込まれた時。
うちの博士達は、まず最初に尋ねたの。
”その《高等生命体》とは何か?”
”それが有する能力は?”」
「まあな。
そのあたりを聞かずに引き受けられないよな」
「でも、尋ねたところで、それほど大した情報が得られるわけないのよ。
ヴァチカンから来た男の答えも、簡潔だったわ。
”目下のところ、正体は不明”
”人間には姿が見えず、『洗脳』とも言うべき『思考強制力』を有する”
たったそれだけ」
「・・・・・・」
「その上で、男は言ったの。
”自分も独自に【それ】を捕獲する術を模索し、完成に近付けているが”
”そこには一切、科学技術などは含まれない”
”そして、おそらくは一回限りしか【それら】に通用しない”
”皆さんには、私と正反対のアプローチで解決へと至ってほしい”
”私のやり方の《予備策》として”」
「・・・最高に煽ってんなぁ、後頭部禿げ」
「でしょ?」
「けど、大口を叩きすぎだろ。
科学技術無しで、どうするんだよ?
いい歳して、虫捕り網でも振り回そうってのか、あの禿げは」
「───ダンボール箱」
「・・・は??」
「手段を構築してから、事に及ぶんじゃなくて。
最短最速を目指し、結果から逆転させるそうよ?
”ダンボール箱を用意し、その《中身》が出たがらねば良いだけさ”
男は、楽しそうに笑っていたけれどね。
博士達はみんな、一言も発さず。
無言で激怒していたわ」
「つまり、”君らは時間掛かるだろうけど、まあ頑張りなよ!”、だろ?
そりゃあ、ブチギレていいぞ」
「ふうん───そうかしら?
本当に、博士達がキレちゃっても大丈夫?
マーカスはそれで平気なの?」
「え??
どうして僕に確認するんだよ?
いや、アレだろ?
その怒りをバネに、無敵の天才パワーで見事、難題を解決!
そういう方向に行くんじゃないのか、これ?」
「本当にそうだったら。
それだけで済むのだったら、いいんだけどねー」
「・・・・・・」




