678話 落ち着いてから死ぬ 04
2杯目のコーヒーを入れたカップを、テーブルの上に置き。
自らも一口飲んでから、エイスリルがやや小さめの声で話し始める。
「長くて面倒な名称が付いているけども。
───【人間及び悪魔への敵対的高等生命体の捕獲計画】」
「は??」
「だから、【人間及び悪魔への敵対的高等生命体の捕獲計画】」
「いや・・・何だそりゃ?」
「脊髄反射で拒否せず、ゆっくり、冷静に、言葉の意味を考えてよ」
「・・・・・・」
「人間と悪魔に害を為す生き物。
マーカスはそういうのに、心当たりがある?」
「・・・まあ・・・あるな」
「それを、見たの?」
「見てはいない。
けど、出会ってはいる」
「つまり、すでに認識しているのね?」
「ああ」
何を指し示しているのかは、理解出来る。
【それ】は、僕とシンにとって《仇敵》だ。
これから先、絶対にトラブルが起きるだろう相手だが。
けれど、何故?
どうして《前科学研究所》が、【それ】に手を付ける?
正直、『悪魔』に関してですら調査、研究の途中だろうに。
「───この話を持って来たのは、ヴァチカンの《上のほう》なのよ」
口にしなかった僕の考えを読み解いたように、説明が続く。
「たった一人で乗り込んで来て、博士達と極秘に面会した男がいるの。
まあ、極秘と言ったって、マーカスには言っちゃうんだけどね」
「いいのかよ」
「言わなきゃ、あなたの任務が終わらないじゃない」
「・・・・・・。
なあ、話を持ち込んだ男って、禿げてたか?」
「ええ、そうね」
「《M字禿げ》だったか?
それとも、《後頭部禿げ》?」
「その二択なら、《後頭部》かしら」
「チクショーめぇっ!」
───やりやがったな!
───またしても、豚の策略に嵌められたかよ!
これ、想像してたような『楽勝な任務』じゃなくて。
ピンポイントで当てがわれた、僕専用のやつだろ。
だってさ。
僕以外の特務員が派遣された場合。
当然ながらエイスリルは、悪魔の存在すら知らない奴に【これ】を喋らない。
よって、そいつは普通に『問題無し』と報告書を提出するわけだが。
ウチの上層部が書いてほしいのは、全て知った上での『問題無し』の一文だ。
おい。
ひょっとして、禿げ共にバレてんのか?
僕とシンが《連中の存在を知ってる》ことも、気付かれてんのか?
それとも、そう思わせたいだけか??




