673話 さいきょうどらごん 03
「もうね!
書けば書くだけ、出せば出すだけ、お金が転がり込んでくるからぁ!
通算、678巻!
このジャンルで敵無し、押しも押されぬ『大作家』様だからぁ!」
「・・・・・・」
きっと相当な価格であろう、天然籐編みのチェアにふんぞり返る姿。
俺はただ、沈黙。
含んだワインの味に違和感が無いか、必死に確認するだけだ。
彼女は本当にそういうのをやってしまいそうで、少しも信用出来ないのだ。
「ねぇねぇ!凄くない??
凄いでしょ??凄いよね、アル君??」
「・・・お、おう・・・」
まあ、掛けられた《圧》の凄まじさに、呆気なくも屈したが。
歯切れの悪い返答になったのは、思いの反対を口にしたからではない。
凄いのは、凄いさ。
確かにその実績は、大したもんだ。
けれど、なあ。
問題なのは、お前が書いている小説の内容だよ。
『ラブロマンス』を遥かに飛び越え、書店の隅にこっそり置かれるような。
地上界では販売されてないにしても、決して大声で喧伝できない種類の。
非常に刺激的な内容が、激しく問題なんだよ。
「何巻目から読んでも、全然オッケー!
一冊につき、最低でも4回はエッチシーンあり!
これぞ夜のお供!!
老若男女、みんなの『オカズ』!!
さあ、みんなぁ〜〜!!
アタクシの本で、ガシガシ擦っちゃってえぇ〜〜!!」
「叫ぶな。近所迷惑だ」
近所というものが、見える距離に無いけどな。
アダルトな俺でも、そうあからさまな事を言われりゃ、気まずいだろが。
正気に戻れよ。
ああ、すでに正気だったか?
ならば、《時間よ戻れ》!
戻ってくれ、図書委員長だったあの頃に!
「アタクシの《アルヴァス》はねぇー!
アル君の『いいとこ』を徹底的に強化した、最強のドラゴンだからぁー!
性別も種族も、関係無し!
車や電信柱が相手だろうが、お構い無し!
穴が無きゃ、穴を掘ってでもファ◯クする!
してみせるっ!」
「マジで黙れ」
「嬉しい??ねぇ、嬉しい??
超絶イケメン!
精力無双!
絶対無敵な《アルヴァス》の!
そのモデルにされちゃったアル君、嬉しい??」
「答えたくもない。察してくれ。
大体、俺の『良いところ』って、そういう部分じゃないだろ?
・・・いや、いい!
何も言うな!」
「言わなくても、書くけどねぇー!
書くけどもぉ───」
がらん。
ミーズレンが置いたグラスの中で、氷が軽やかに踊った。
「ちょっとさ。真面目な話、していいー?」
「おい。
俺の明晰な頭脳を侮るなよ。
お前、そんな事を言いながら結局、不真面目な方向へ持っていくんだろ?」
「いーやー?
ホントに真面目、大真面目だからぁ」
「・・・・・・」
「TVで見たんだけどさぁ。
アル君は《蜂騒ぎ》の時、首都に居たんだよねぇ?」
「まあな」
「じゃあ、陛下が戦ってるトコも見たんだよねぇ?」
「おう」
「───陛下ってさぁ。
どれくらい強かった?」




