672話 さいきょうどらごん 02
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「───ほうほう!ほほーーう!!
つまり、アル君は!
愛しのファリアちゃんに求婚されたけど、しどろもどろで!
『やり逃げキス』だけで、時間稼ぎに走ろうと画策して!
そんでもって裏では色々、他の女とイチャコラしまくってるワケだー!」
「・・・やめろよ、悪意に塗れた言い方は」
「悪意どころか、愛情たっぷりのイジリだけどねぇー!」
シャンパンを一気に飲み切ったミーズレンが、げふう、と息をつく。
蛍光ピンクの髪の耳元に揺れる、3連ピアス。
Tシャツには見事な毛筆で、『定時退勤』のロゴ。
とても超資産家とは思えぬ、ラフ過ぎる格好だ。
三つ編みメガネの文学少女なんて、欠片も面影がありゃしない。
「いい加減にしろよ、もう。
自分の恋愛関係を一々説明するなんざ、酷い拷問だぜ」
「いやー、それこそアタクシの食い扶持なもんでねぇー!
アル君の恥ずかしい秘密は全部、《アルヴァス》の養分に変換ですよぉー!」
「それをやめてくれ、って言ってんだよ」
「はぁーー??
冗談よしてくださいなー。
だったらぁー。
あろう事か、学校内でぇー。
初恋のクラスメイトと保健室の先生の、『特濃エッチ現場』を目撃した女の子。
その衝撃と心に負った傷は、どうしてくださるんですかねぇー??」
「・・・・・・」
「ウィシュリー先生、結婚してお子さんも産まれたらしいじゃないですかぁ。
良かったですねぇー」
「・・・・・・」
「あれ??お返事はー??」
「・・・本当に、頼むから勘弁してくれ。
きりきりと、何でも洗いざらい喋る・・・喋ります」
「はいはい!
いい子だね、可愛いねアル君!
勿論、アレは誰にも言わないから安心だよぉー!
それよりさぁ、飲もうよ!」
「・・・・・・」
「ねぇ。
───飲むよね?」
「・・・・・・おう」
こうなったらもう、大人しく従うしかない。
たとえ酔い潰されようと、ひたすらに飲んで許しを乞うしか道は無い。
『あれ』は。
悲しいかな、『若さ故の過ち』だった。
いや、当時の感情や行為そのものには、何ら省みる点も無いが。
昂ぶるあまり、周囲の警戒を疎かにしたのは、大失態だった。
いくら年月が経ったとは言えど。
あの話が暴露された日には、俺が恥をかくだけで済ませれない。
ウィシュリー先生とその御家庭にも、多大なる迷惑が掛かってしまう。
それだけは、何としても回避しなければ!
「・・・いただき、ます」
「うんうん!
ぐっ、と飲っちゃえ、アル君〜〜!」
壁のように立ち並ぶグラスの1つを手にすれば、陽気な励ましの声。
・・・なあ、これ。
・・・変な薬とか、入っていないだろうな?
まさか、そこまではしないよな?
やらないよな!?




