671話 さいきょうどらごん 01
【さいきょうどらごん】
『生物』とは、成長し変化するものだ。
人間であれ、悪魔であれ、それ以外であれ。
確実に変わる。
月日と共に、姿が変容し。
内面もまた、多くの体験によって磨き上げられ、洗練されてゆく。
学び舎の同期などは、その最たる例。
《ガキ大将》だった奴が、後の猛勉強の末、《数学者》になって驚き。
かと思えば、昼の弁当を3つ食べてたのは、やっぱり大食い大会で連覇し。
大戦で命を落とした者も少なからずいるのは、悲しいが。
現在となっては俺を含めて皆、まあまあの年齢だ。
大抵は家庭を持ったり、事業を興したりと、それなりの場所に収まっている。
同窓会で集えば、誰しも互いの変わりっぷりに爆笑する程である。
そんな中でも。
ミーズレンに起きた『変化』は、一際に大きいものだった。
───どうしてだ。
───古典文学を愛する図書委員長の彼女が、何故こうなったか。
「えっとぉー。
20年?それとも、30年振りくらい?」
「多分、その中間くらいだな」
「そっかぁー。もうそんなに経ったかぁー。
ま、いいや!
取り敢えず、ジャンジャン飲んでよ!遠慮無しに!」
出されたコーヒー、まだ2回しか口を付けてないけどな。
テーブルに並ぶ1ダース以上のグラス達を、次々と満たす液体。
目の玉が飛び出るような、《お高い酒》が。
どっぱどっぱ、と擦り切り一杯、現在進行系で注ぎ込まれてゆく悪夢。
「おい。やめろって、マジで」
「いいんだよぉー!これくらい、どうって事ないし!
アタクシ、アル君のお蔭で、ウハウハに稼いじゃってるから!
あ、そうだ!
スポーツカー、乗りたいヤツある?
なんなら、どっかの島でも買ってあげよか?」
「要らねぇよ、そんなもん」
「とにかく、飲んで飲んで!
片っ端から飲っちゃってぇー!」
「お前なぁ。
真っ昼間からアルコール出すなよ。
俺を酔わせた挙げ句、いかがわしい事でもしようってのか?」
「うん!
そういうのもアリかなぁー!」
「ねぇよ、馬鹿」
ミーズレンは、地上で暮らす悪魔。
そして、人間としてはニュージーランドで一番の資産家だ。
国立公園も青褪める、超広大な敷地。
豪邸を通り越して、もはや《城》レベルの大邸宅。
しかも、此処は本宅じゃなく《別荘》だというから、気絶しそうだ。
その『フットボールができそうな』、居心地悪いテラスで飲むコーヒー。
さぞかし高級品なんだろうが、味も香りも楽しめない。
緊張の余り、胃がキリキリ痛んで飲食どころではない。
正直、さっさと帰りたい。
けれど、それが叶わないのは。
本日の俺は、《とある約束》を果たす為に彼女の下を訪れたからだ。
いや、まあ。
《約束》というか、その。
ぶっちゃけて言うと。
俺は・・・ミーズレンに《脅されている》のだ。
初等学校在籍時から、今も尚。
数千年の永きに渡って、旧・評議会並に、執拗に。




