669話 夜の、もうひと頑張り 07
「たくさん教えてもらったから。
先生には何か、お返しをしなきゃだなー」
「や、要らない要らない。
学業のほうも頑張って、私の講義を落とさないでもらえば」
「魔法とか掛けてあげるの、どうです?」
「だから、要らないってば。
ほら、前に見たでしょ?
そういうのはすでに、幾つもあるからさ?」
「うう〜ん」
「私がした助言なんて、ただの《素人考え》だよ。
殆ど、一般論レベル。
お礼だなんて考えなくていいから、」
「───許可が出ました!」
「え?」
「藤田先生のお母さんから。
『プレゼントを渡していい』許可、貰いました!」
「ええーー!?」
母さんの、公認??
「ちょっと待って!
な、何を掛けるつもりなの!?」
「つもり、ってゆーかー。
もう終わっちゃいましたけど?」
「はあ!?」
「───ねえ、先生。
この世には、色んなのがいるじゃないですか」
「??
色んな、とは?」
「ある程度の知性を持つのだけ、並べるとー。
まず、人間」
「うん」
「悪魔も」
「そうだね」
「エルフ」
「エルフって、いるんだ?」
「いますよー」
ファンタジー映画に出てくる、耳が長い種族。
あれって、本当に存在してるんだ?
「そして、ミステリオス」
「何それ?」
「あー、ええと───ニホンで言うところの、『ヨーカイ』?」
「妖怪もいるの??
いやぁ、知らなかったよ。
やっぱり民間伝承っていうものは、幾許かの真実を含んでいるんだねぇ!」
「そりゃあ、そうですよー。
で。
あとは、その他」
「うん?」
「その他が、いるわけですけど」
「・・・・・・」
顔を上げて、ルームミラーを確認すれば。
こちらをじっと見つめている彼女と、視線が合った。
「・・・その他、ね」
「───その他、です」
「・・・・・・」
「藤田先生のお母さんが掛けてるやつの上から、重ねておきました。
魔法とか術式とは違う、【蜘蛛の固有能力】を」
「それ、どんな効果があるんだい?」
「偽装している『その他』の姿を、見破ること。
それらからの《洗脳》や《記憶操作》を拒絶すること、です」
「・・・・・・」
「『その他』にも微妙な差があって、全部で3種類なんですけどね?
どれが相手だとしても有効だから、安心ですよ」
「・・・ふうん・・・3種類・・・」
「この能力が発動した時は、【能力】を分割譲渡したあたしだけじゃなく。
先生のお母さんは勿論、先生自身にも分かるようにしてあります。
さっきも言いましたけど、これは魔法とは異なりますから。
先生が悪魔と関係している事を知っている『その他』にも、バレにくいです。
───だから、上手く使ってくださいね?
『見破ってないフリ』。
『洗脳されてるフリ』。
『忘れちゃったフリ』。
少しでも時間を稼げれば、救援が間に合うんで」
「・・・ちょっと、質問いいかい?」
「何です?」
「君って、本当は賢いんじゃないの?」
「あはは!
やだなー!フリですよ、フリ!
蜘蛛はみんな、《演技派》ですからー!」
「ふうん」
”どちらのほうがフリなのか”は、言わないんだね。
確かに、《演技派》だなぁ。
もしくは、どちらも《本当》とか?
「・・・有り難う。
【これ】は、きっとこの先、とても役立つと思う」
「よかったー!
藤田先生!
また近いうち、『ムカデ捕り』に行きましょうね!」
「そうだねぇ」
・・・うん。
『野外ゼミ』、なんだけどね。
食料採集じゃなくて。




