表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
662/743

660話 通り雨 02



「久しぶりだねー!」


「ええ、お久しぶりです」



ホログラムウィンドウの枠の中の《総会長》が、にこやかに笑う。


額にかかった髪を、白い指で横に流して。


おびただしい量の汗を浮かべ。

それを、ぼたぼたと(こぼ)しながら。




───彼女は。


───若干15歳の『天才』だ。



薫とは、まるで違う次元の。

《予言の娘》さえも遥かに凌駕する、生まれながらの『異能』の持ち主。



”完全有機生命体において、演算最速”。



そう自称する彼女を支えているのは、才能と努力のみならず。

【合法ギリギリの薬物】だ。


六価ジスメルやバイドファクタムのような、通常処方薬の類とは異なり。

末期医療の現場で微量のみ投与される、【ほぼ廃人コース確定の覚醒薬】。


それを毎日、ひっきり無しに使用している。

濃度を高め、耐性を更に引き上げ。

致死量の桁数を飛び越えてもなお生き延び、笑っている。


『演算し続けている』。




───その代償が、収まることのない《発汗》だ。



勤務中も寝ている間も、彼女は常に自分の汗で濡れている。


関係者の誰も、それを気に止めない。

あどけない顔の少女がスリップ一枚で歩き回れど、振り返りもしない。


総会の席上ですら上着を羽織ることなく、同じ格好だ。


その事を注意出来るような役職者も存在しない。

彼女こそが序列最上位の、最高責任者であるが故に。



「───ねえ、あっちゃん」


「はい」


「もう『それ』、終わらせたほうが良いんじゃないかな?」


「・・・・・・」


「一応、報告書は全部、目を通してるよ?


『読了署名』は、わざとしてないけど。

総会長の(サイン)が入ると、みんな怖がっちゃうからね」


「・・・・・・」



ああ、そうきたか。


彼女は誰にでも、気さくに《ちゃん付け》で話す。

それを知っているからこそ、仲が良いなどとは過信せぬようにしていたが。


しかし、その分、”実際の関係性は薄い”と思い込んでいたようだ。


まさか。

決して現状を知られたくない相手が、報告書(あれ)を読み込んでいるとは。


演算してしまっているとは。



「分かるでしょ?

これってもう、『完全に失敗してるケース』だよね?」


「・・・はい」



濡れそぼった乳白色のスリップが貼り付き、肌が透けて見える扇情的な姿。


金の髪から、顎先から。

おびただしい汗を(したた)らせつつ、総会長が言う。



「とにかく、宗教による思想統制を投げ出したのが致命的。

天界に属する者が、っていう責任部分は、今更言っても仕方無いけども。


事実として、そのせいで全部が悪い方向へ傾いちゃった」


「・・・はい」


「思想統制が不完全だから、戦争が続き。

戦争が続くから、人類の総数が伸び悩み。


そして。


人口が少ないから、宇宙に出て他星へ移住する必要が無かった。

地球環境を破壊しながらも、”何とかやっていける”と信じ込んで。

結局、そこから一歩も踏み出せなくて。


その程度の文明だから、外宇宙の知的生物からも無視された。



───ごく普通の、一般的なケースなら、こうはならないよ?


人類は生命体として、最大でも最強でもないけれど。

それでも大抵は、『直立甲殻類』と並んで『4強』に入るくらいなのに。


全然駄目!

どこまでいったって、種族内の紛争すら終わる目が無いよ。

おまけにこれ、早くも《精神的退化》の時期に突入しちゃってる」


「・・・・・・」


「演算結果が間違ってると感じたら、正直に言っていいよ?」


「・・・いえ。

総会長の見解を支持します。

管理官たる私にも、ここからの挽回手段は皆無です」


「うんうん。

どうやったって、すでに『詰んでる』よね?」


「ええ」


「───じゃあ、あっちゃん。

『それ』、終了させちゃおうよ!


今ね、《新規作成》してるのが幾つかあるから。

管理官の地位のまま、その一つに赴任させてあげるよ。

総会長権限で!」


「・・・いえ・・・それは・・・」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
人類を基軸として考えているんだな,,,直立甲殻類?とかが基軸になってもよさそうなのに.人類の発展度合いを基準として考えているってことは,目的は自分たちに並びうるほど発展した人類の育成,とかなのかな?ま…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ