表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
660/741

658話 Nothing worth living for or dying for. 08


「・・・・・・くそったれ!

何が『ゲーム』だ!」



テーブルに突っ伏し、僕は悪態を()くしかなかった。



「こんなもの、最初から勝敗すら無い。

口の回りを良くする為の、手の込んだ誘導尋問じゃないか!」


「けれど、そのお陰で罪悪感も薄くなっただろう」


「はあ!?」


「逃げ道を塞がれ、追い詰められ───仕方なく喋ったのだ。

君には何も非が無く、私だけが悪者。

それで、丸く収まったということだ」


「当然だろ、それは!」


「どのみち《補佐官》は、《規格外品》ではない。

仲間を売ったわけでもないのだから、そう落ち込まなくとも良かろう」


「・・・・・・」


「大した事も出来ぬくせに、手の届かない部分へまで同情して、悔やむ。

そういう《人間のふり》をしてみたところで、人間になれはしないよ?」


「それが真実だとしても、あんたに説教する資格は無いだろ」


「そうだね。

だから一応、《説教するふり》をしてみただけさ」


「・・・・・・」


「私としては、これで欲しい情報(もの)が手に入った。


どうして『それ』が《補佐官》に立候補したのか。

そして、採用されたのか。

とても納得がゆく回答だったよ。



───だから、こちらも約束を守ろう。


───これ以降、我々は《規格外品》を『削除』しない。



君が口を割らない場合に備え、ネイテンスキィを待機させていたけれど。

君の仲間達。

『落書き犯』も『小説家気取り』も、生かしておこうじゃないか」


「っ!!」



まさか。

全員の座標がバレているのか!?


いつからだ!?



「まあ、楽にするといい。


これで君に対する用件は、完全に終了した。

勾留期限まで、あと3日ほどあるが。

それまでは精々、健康的な食事と十分な睡眠を取って。

少しも文句を付けられない『万全な状態』で、住処(いえ)に帰りたまえ」


「・・・なあ。ちょっと、質問してもいいか?」


「勿論良いとも、『無法の王(リデラーキア)』。

何でも答えよう。


私がそうする理由も、説明するべきかね?」


「いや。

別にそれは、聞きたくない」


「ふむ」



”何でも答える”なんて、大盤振る舞いは。

こいつが今、大変に上機嫌だからじゃあない。


僕や、僕の仲間・・・《規格外品》という存在が、どうでもよくなったから。

元々興味が無かったのに加え、利用する価値さえ失ったから。


どんな最高機密も、聞いているのが蟻ならば躊躇(ためら)わずに話せる。

相手にもしていない。

ただそれだけの事。


そして、そういうスタンスを隠す気もございません、って?



「・・・袋に入った『ドロドロ死体』。

あれを作ったのは、あんたで間違い無いか?」


「死体にしたのは、別の者だが。

ああなる前の状態の《製作者》という意味で問うたのなら、私だよ」


「なんで、あんなのを作る必要があったんだ?」


「それは、因果応報というものだろう」



またもや白煙を吹き出しながら、(うそぶ)く天使。



「君が、弟子とやらに『おかしな鎧』を着せるものだからね。

ああいった措置を取らざるを得まいよ」



『鎧』・・・『愚者の礼装(フールズ・シェル)』の事か?


あれが持つ無効化から逃れる為に。

何らかの技術で対抗するんじゃなくて、天使自体を『変えた』のか??



「・・・頭がイカレてるよ、あんた」


「あれほど『非道徳的な鎧』を作った君に言われると、光栄だな」


「・・・・・・」


「君は《墓守》からしか、天使の死体を入手できないからね。

現状に気付かれぬ内に、『鎧』の力を封じ込めてしまいたかったのさ。


ただ、『あの死体』だけは偶発的な産物で。

どうにも始末に困ったんだ。


君の研究材料になると分かっていても、放出するしかなかったよ」


「・・・・・・」


「勿論、購入した以上は、あれを好きに活用してくれて構わないが。

君が思っている程の役には、立たないだろうな」


「・・・何でだ?」


「言っただろう?

”もう君達を『削除』しない”、と。


それならばもう、我々が争う理由は見当たらない。

『鎧』を新調する必要だって無くなるだろう?」


「それ・・・本気で言ってるのか、あんた」


「当然さ。

お互いが心の底から願わなければ、平和など実現しないと思うが?」


「・・・・・・」



イカレ具合もここまで来りゃ、満点だ。

もう手遅れだ。


理屈だけで考えて、感情ってものを一切合切、無視してやがる。

自分だけじゃなく相手の分まで、勝手に!



「・・・だったら、『ネイテンスキィ』とやらは、何なんだ?」


「うむ。

彼女は、『あの死体』とは違うよ。

非常に有能で面白く、私としても、」


「余計な事はいい!

あいつは何なんだよ、いったい!?」


「君は今、彼女を───『あれ』ではなく、『あいつ』と呼んだが。

それはつまり。

私に問い掛けながらもすでに理解が及んでいる、とみて良いのかね?」


「あんたの口から、聞きたいんだよ」


「ふうむ。

それなら答えるが。


君が予想している、そのままだよ」


「・・・・・・」


「私は、《神》でも《管理官》でもないからね。

やがて訪れるだろう未来(さき)を、確定できない。

どうなっても対処出来るよう、身構えておくのみだ。


故に。


もしも、君達と手を組まなければならなくなった場合。

どれだけ説得しようと、我々を恨む事をやめてもらえなかった場合。


それを想定して、彼女を作ったのさ」


「・・・・・・」


「《規格外品》から振り分け。

丹念に記憶を消して、『天使にして』。

更にそれを選抜して、優秀な者を残した。


つまり。

そうする事によってこそ、互いが真に分かり合えるのだよ。


私は彼女を、”正式な天使だ”と認めよう。

君達だって『仲間が天使になった』のなら、祝福してくれるだろう?


天使の中には、『彼女のような者がいる』。

元《規格外品》である、同類が含まれる。


そうであれば、冷静になって過去の事も水に流せるのではないかね?」


「!!!」


「作り変える際の作業や、その後の選抜において、いくつも『失われた』が。

その命の数を思えば、無下にもできまい?


さあ───『無法の王(リデラーキア)』。


過ぎ去った時間よりも、これからを有意義に生きようじゃないか。

それこそが、知性ある者の振る舞いだと思うよ?」



こいつ、本気で。

心の底から本心で、とんでもない事を言ってやがる。


僕らを《規格外品》と呼び、手当り次第に命を刈り取りながら。

ゴミのように扱っておきながら。


その裏で、こんな───外道の行いを───




頭の中。

僕を捕らえた天使。

ネイテンスキィ・リッド・カーノンと名乗った女の、冷ややかな顔が浮かび。




何の比喩表現でもなく。


胃の中身を全部、テーブルにぶち()けた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
あー、なるほど、、、なんで異能を持つ人を殺した天使を殺したのか気になっていたけど、そういうことかぁ、、、それにしても長官、思っていた以上の外道だったな、、、
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ