655話 Nothing worth living for or dying for. 05
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「───遥か昔。
”《規格外品》を『削除』しよう”という動きになった理由は、単純だ」
タバコの灰を左の手の平に落としながら、天使が言った。
「その名の通り、規格外、不良品。
我々が上手く管理出来ずに発生し、流通してしまった《失敗作》だから。
恥ずべきものであり、見るに耐えなかったからだ」
「・・・・・・」
「まあ、冷静に考えれば、放置しておいても良かったのだがね?
何らかの『不適当な能力』を持って生まれた《規格外品》に、自由は無い。
人間社会において、目立たぬよう。
誰からも『有害だ』と思われない範囲で、ひっそりと生きるのみ。
存在していて不利益が無いのなら、気にしなくていい筈だった」
「・・・・・・」
「けれども、最初に『削除』と決めてしまったものだから。
特段それに異を唱える者もなく、思考停止で延々と続けられたわけさ。
責任者の代が、変わるまではね」
手の平に吸い殻を押し付けて握り。
開いた時にはもう、灰ごと消失していて。
しかし、すぐにまた次の一本に火が点される。
「それから、時が流れ。
私の管轄というか『権限』が、そういった部署にも及んだ時。
無駄な事は徹底的に無くそう、と思った。
つまらないプライドで一々ゴミを片付けるより、別の仕事に注力しよう、と」
「思ったけど、実際には変えなかったんだろ。
だから、僕達はずっと殺されてきた」
「いいや。それは違うな。
私は確かに、愚かしき慣習を無くしたとも」
「どこがだ」
「《規格外品》を、意味無く『削除』する事を止めて。
正しく改めたんだよ、私の中で。
───どうせなら目的を持ち、『有意義に削除しよう』とね」
「・・・・・・」
「知りたくなったのさ。
延々と、無情に、しらみ潰しに。
恐怖のあまり、涙も出ないほど徹底的に『削除』し続けたなら。
”《それら》は、どうするのか”。
”何処へ逃げ出すのだろうか”、と」
「・・・・・・」
「───人間であれば、何も出来ないだろう。
戦争や災害で多くの命が失われても、右往左往。
無様に地表を這い回り、妄想の中に産み出した【神】に祈るだけだが。
《規格外品》の場合は幸運にも、分不相応な能力がある。
僅かでも可能性を秘めている。
───私は、観察したいんだよ。
《有益なゴミ》が、命懸けで出口を探し。
どうしたら成功するか、どうなると失敗なのか、その身をもって試す様を。
全て確認して。
それを私自身の為だけに、使いたい」
「・・・・・・」
「だから、《特に古いもの》の一部は、わざと見逃した。
閉鎖的な、くだらないコミュニティの中で『芸術ごっこ』をしていても。
それ以外の同類が根絶やしにされたなら、《旅立つ》のではないか、と。
それでも動きが無く、停滞を続ける場合は。
故意に《規格外品》を量産し、」
「やめろ!もういい!」
「──────」
「・・・・・・《船》の、《発着所》か?」
「座標はすでに、知っている」
「新しい経路は?」
「把握しているよ」
「じゃあ・・・《船の乗り方》か?」
「それも分かっている」
「・・・ちょっと待て。
《それ》は、誰から聞いた・・・聞き出したんだ?」
「”《船》には乗ってもいいが、乗り続けてはならない”。
そういう事だろう?」
「いや、だから!
《それ》をどうやって知った!?」
思わず大声を上げたが。
天使は溜息混じりの白煙を吐き出して。
酷くつまらなさそうに呟いた。
「───乗れば、すぐに理解出来るさ。
それこそ、ある程度の知性さえあれば、ね」




