654話 Nothing worth living for or dying for. 04
「・・・なあ、弁護士を呼んでくれよ。
それまでは何も喋りたくない。
黙秘権を行使する、ってやつで」
「実に無理な相談だ」
長髪を後ろで縛ったイケメンが笑顔のまま、即座に『NO』。
「けれども、弁護士の代わりに《墓守》なら呼べるが?」
「!!」
おい!!
どうしてここで、アイツが!?
「・・・まさか・・・例の『ドロドロ死体』を持ち込んだのは」
「ああ。
その反応を見るに、『あれら』はしっかりと売れたようだね」
「・・・・・・」
ちくしょう!
あの《強欲色情魔》と結託してんのか!
てことは、コイツも性格破綻者だな!
確定だな!
「───さて。
それでは、ちょっとした『遊び』をしよう」
「あ?」
「私が聞きたいであろう事を、君が予想して話す。
そういうゲームで、余りある時間を潰そうじゃないか」
「・・・・・・」
ほらみろ。
やっぱり、ロクでもない奴だよ。
嫌らしさの塊だ。
どうせ最終的には、どうやってでも欲しい物を手にするくせに。
その過程で《おまけ》もたっぷり吐き出させよう、って魂胆だな?
───そうはいくか!
───初っ端に釘を刺しておかなきゃな!
「どういう『ゲーム』であろうと、仲間の事は喋らない」
「ふむ」
「それを聞きたいなら、遊びじゃなくて拷問でもやれよ。
自慢じゃないが、すぐに洗いざらい吐く自信があるぞ」
「うん、今のは面白い。
『面白かった』な。
けれど、そんな事は《方針》に反するが故に、出来ないんだよ。
出来るとしても、わざわざするつもりは無いね」
「??・・・なんでだ?」
「君達《規格外品》が何処に潜伏していようが。
生きていようと、死んでいようと───何の興味も湧かないからさ」
「だったら、殺す必要だって無いじゃないか」
「ああ。無いね、まったく」
「・・・・・・」
「”《規格外品》を探して『削除』せよ”。
それを指示をしているのも、義務であると定めているのも、事実さ。
しかし、そうしなければならない明確な理由は無い。
放っておいたところで、君達が静かに暮らしているならば《無害》だ。
取り立てて騒ぐほど、目障りという訳でもない」
「じゃあ、殺すなよ。今すぐやめろ」
「そうだね──────まあ、いいとも」
「・・・・・・」
「君が話してくれる内容によっては、即刻やめてもいいかな」
「・・・・・・」
「今後一切、どんな《規格外品》も『削除』しない。
そうしたところで当然、こちらには何の不都合も無いのだし」
「アンタは一体、僕に何を喋らせたいんだ?
はっきり言えよ、イライラするから」
「ははは、困ったな!
『君に話してもらうゲーム』の筈が、こうも掻き回されるとは。
流石、『無法の王』。
一筋縄ではいかないね!」
「おだてて逆さに吊るそうと、さっき食ったモノしか出ないぞ」
「いやいや。
───申し訳無いが、一服してもいいかい?」
手品みたく瞬時に出現させたタバコの箱を、天使が振ってみせる。
「・・・好きにしてくれ。
こっちは囚われの身だ、文句を言える立場じゃあない」
「そうか。有り難う」
カキン、とライターの蓋を跳ね上げる音。
着火の後に、また閉じる音。
「・・・・・・」
なんだよ、このシチュエーションは?
喫煙する天使なんて、どんなに優雅な仕草だろうと似合いはしない。
胡散臭いだけだ。
それでなくとも得体の知れない男が、吐き出す煙で更に分からなくなる。
理解することを諦めてしまいそうになる。
───この長髪野郎は、いわゆる《主役級》だ。
───僕なんかじゃ到底、太刀打ち出来ない。
コイツが考えている事や望みが、ダイレクトに。
そのまま誰の同意も無しで、この世界のメインストーリーになるような。
そういう荒唐無稽な想像すらしてしまうほど、他の存在を超越している。
この場で白旗を上げ、”ごめんなさい”と降参したくなる。
「せっかく天界まで来てもらったのだから。
君には是非、有益な情報をもたらしてほしいのだよ。
その為に。
そこそこの知性があるなら、『何を話せば良いか』推測出来るように。
とても分かり易いヒントを出すとしよう」
下等生物を憐れむ言葉と、慈悲深い微笑で。
ふう、と細く白煙を吐いた天使が、僕を見つめた。
「───どうして私が、意味も無いのに君達を『削除』し続けたか。
その思惑を話そうじゃないか、『無法の王』」




