653話 Nothing worth living for or dying for. 03
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馬鹿野郎ッ!
こんなメシが食えるかーーーッ!!
そう言いたかったが、言わない。
とてもじゃあないが、言えやしなかった。
まあ、全部平らげてからだと、”何様だよ”って台詞だし。
吠えるだけの豪胆さも持ち合わせてないし。
心の中、小声で感想を述べる程度にとどめておいたさ、実際には。
・・・けど、ホント正直なところな。
毎食毎食、ナイフとフォークを使わされる『お上品な食事』は、ウンザリだ。
新鮮な野菜がたっぷりの健康的なメニューとか、性に合わないんだよ。
どうせ出すなら、いつも食べてるような油ギトギトのフライやピザにしてくれ。
飲み物は真っ黒な炭酸、カロリーゼロじゃないほうの一択で!
それか、いっそのことアレだ。
『死にたての悪魔』とかでも構わないぞ?
全然イケるって。
何千年か前は、そういうので空腹を凌いでたんだからさ。
小骨が多くたって大丈夫、慣れてるよ!
───そんな独り言を、口には出さず繰り返し。
───よく分からないアジアンテイストなお茶を啜っていたら。
自動ドアがスライドして、一匹の天使が部屋へ入ってきた。
食事を持ってくる奴とも、下げる奴とも違う顔。
あからさまに、もっと地位が高そうな男だ。
(うわ・・・『大物登場』ときた)
(いよいよもって殺されるのか、これ)
「───やあ、『無法の王』。
随分と待たせてしまい、申し訳ないね。
睡眠は取れているかい?
気分はどうかな?」
「・・・いいわけないだろ、常識的に考えて」
「ふむ」
「余計な挨拶とか要らないからさ。
さっさと肉体を切り分けて、好きなだけ脳から情報を吸い出せよ」
ありがたくもない呼び名は、さておき。
最も恐れる事を自分のほうから口にするのは、恐怖に耐えられないから。
僕がビビリまくってるから。
当然、そういうのは相手にも伝わってるに違いない。
「ああ、そうだね。
最初は勿論、そうするつもりだったけれども。
色々あって、強制は無し、と決定した。
《ごく穏便に事態を進める方針》に、切り替わったのだよ」
「・・・・・・」
「つまり。
話すことを話せば、君は無事にここから解放される、という次第さ」
「・・・・・・」
いや、どうしてだよ。
おかしいだろ、それは。
《方針》って、何だ?
ガチョウみたく食わせて肥え太らせて、最後に締めるんじゃないのか?
『本当の本当』は、たっぷり趣向を凝らしてから殺すつもりで。
優しい言葉で安心させておき、後で突き落として落差を楽しむんだろ?
───だが。
───そりゃあ僕だって、死にたくはない。
生きていられるなら、そちらの道を選びたい。
信じてしまいたい。
「・・・ここへ閉じ込められてから、ずっと。
一日三食、立派なメシを頂いてきたけどさ」
「うむ」
「それでも最初の18時間は、一口分の水すら差し入れちゃくれなかった。
その間に、《何か状況が変わった》ってことか?」
「まさに、その通り。
良かった。
君が知性の欠落した個体ではなくて、助かるよ」
「・・・そりゃどーも」
嬉しくはないけどな。
僕を人間扱いしてない上、それを隠す気も無さそうだし。
はは!
偉そうなだけあってコイツ、完璧な差別主義者だよ。
お高く留まった、『典型的な天使様』だ!




