652話 Nothing worth living for or dying for. 02
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「ですが!彼等は、その他とは違って!
その、何というか・・・いや・・・有益!
そう、《有益》なのですっ!」
顔面を紅潮させた男が、しどろもどろに声を張り上げる。
「非常に友好的で、論理的な会話が可能で!
そういった関係を維持・・・ええと、長期に渡って!」
これは───どうしたものか。
言わんとするところは、分かる。
『どこに着地したいか』も、予測出来る。
しかし、そうであるだけに、これ以上聞かされるのは苦痛だ。
興味深い内容ではあれど、プレゼンテーションとしては完全に落第点。
話の流れも言葉の選定も、事前に組み上げていないのが明らか。
おまけに、勢いで押し切れるような弁論術すら無し、ときている。
駄目だな。
主張以外で評価できるのは、ここへ乗り込んできた度胸くらいのものか。
「───つまり。
総じて強力な個体である《蜘蛛型》と友好を結んでおけば、損は無く。
いざという時には悪魔共の戦力を減らせる、と。
そういう事で良いのかな?」
「は、はいっ!その通りです!
将来を見据えての、『策』になるかと!」
私の出した助け舟に乗り、男は額の汗をしきりに拭うが。
安堵するのは些か早いな、《道化師候補》よ。
「彼等が友好的だというのは、確かかね」
「はいっ!それは勿論っ!」
「ならば。
そう結論を出せるほど、君達はすでに彼等と接触している、という事かね」
「あっ・・・いや、・・・・・・はい・・・」
「ふうむ」
微笑みを絶やさぬまま、少し目を細めて『思案』の表情を作る。
あくまで、そういう『ふり』だ。
それなりに頭が回る者なら、見破れる程度の。
それが何を意味するか考えさせる為の、ヒントのようなものだ。
───しかし、20秒も待ってやったが、男は無言。
───ただそわそわと、私の顔色を窺うしかできないようだった。
(この件に関しての《面白い》は、もう終わりか)
呆気ないが、それでも”あっただけまし”とも言える。
すっぱりと見切りを付け、最終段階に入ろう。
いや。
最後の最後に、多少の恐怖くらいは味わってもらうか。
「───さて、君達の言い分は良く分かった。
それで。
”蜘蛛型の悪魔と交流する団体”を正式に認可してほしい、との事だが」
笑みを完全に消し。
誰の目にも『冷酷』と映る仮面に変えて、静かに告げる。
「そういった考えを持つ者は、この部屋に入って来た君達で全員かね」
「・・・ッ!!」
「答えられないのであれば、調査するが。
どうなのかね」
「・・・わ、我々のみ、です」
「5名で全員───間違いないな?」
「・・・はい・・・」
返答した男だけでなく、後ろに立つ残り4名にも動揺が走った。
腕も、脚も。
体全体が、はっきりと震えている。
”失敗した”。
”関係者全てまとめて粛清されるのだ”、と。
そう思考を誘導する為に、仕掛けたのだが───
結果、《失望》と《感嘆》が1つずつ。
前者は、またしても彼等が『ふり』を見破れなかったこと。
後者は、それでも自分達の主張を取り下げるという道を選択しなかったこと。
(流石にザンガスのような突き抜けた逸材は、そういないか)
そもそも彼ならば、直接にここへ蜘蛛型を連れて来るぐらいはしそうだが。
まあ、彼等を虐めるのも、ここまでにしておこう。
「───足りないな」
「・・・え?」
「たかだか5名程度では、まるで足りんよ。
至急、その10倍以上に賛同者を増やしたまえ」
「天使長!!そ、それではっ!?」
「ああ、今すぐ認可するとも。
だから。
その承認を携え、見せ付けながら、大いに喧伝して歩くといい。
引き込む相手は───そうだな。
『実務担当者よりも管理者クラスが望ましい』、とだけ言っておこう」
「は、はいっ!!
そのように!!直ちにっ!!」
地獄の奥底から天界へ舞い戻ったかのような、嘆願者達の歓声。
そうか、そんなに嬉しいかね諸君。
私も満足だよ。
正確に言えばその感情も、とっくに過去形ではあるのだが。
───ただ、本日はこれから《非常に重要な案件》が控えているのでね。
───申し訳ないが、ここらで退室願おう。
次に会う時は、団体所属者の一覧と合わせて。
更に楽しく面白い話を聞かせてくれたまえよ。




