651話 Nothing worth living for or dying for. 01
【Nothing worth living for or dying for.】
───私は、誰も信用していない。
自分がどのような存在だと思われ、扱われ。
周囲が如何なるアクションをおこしたとしても。
私がそうなるように仕組み、誘導したのだとしても。
分かっていて、そこまでやったその上で。
信用しない。
執着や親愛のような感情も一切、持つことがない。
───だが。
───《面白いもの》であるなら、話は別だ。
例えば、ザンガス。
彼は、考えれば考えただけ、頑張れば頑張るほど、見事に『方向』を誤る。
それを眺めているだけで、日々の疲れが半分ほどは消え失せる。
幸せを感じ、思わず優しくしてやりたいような気持ちにさえなれる。
もしくは、ネイテンスキィ。
どうにも強情で、頑として天界へ戻ろうとはしないが。
彼女の発想は抜きん出てユニークであり、有用だ。
突発的な局面でも、ノータイムで誰も考えが及ばない場所へ飛び込める。
私を心の底から嫌っているところもまた刺激的であり、飽きさせない。
あとは───フォンダイト。
奴の場合、《面白い》というよりは《優秀な駒》か。
奇妙な思想を持つ男だが、その行動力はネイテンスキィすら凌ぐ。
アルヴァレスト並みに制御不能で、アルヴァレストよりも格段に危険だ。
懐に入れておくには少々、『切れ味が良すぎる』。
在野へ下ってこそ能力を発揮出来る、《非常に特別な駒》だろう。
───その他はもう、私にとって大した意味が無い。
───まったく《面白く》ない。
やや強引に纏めるならば。
大体にして、大抵が《面白く》はないのだ。
私を取り囲む97/100くらいが、そういうもので成り立っているのだ。
それら《面白くないもの》と、どうしても向かい合わねばならぬ時。
私は、努めて穏やかに微笑むことにしている。
勿論、気分的には真反対なのだが。
そうやって表情を作っておかねば印象が悪い上に、結局は安く見られる。
《四六時中しかめ面した権力者》など、あまりにありきたりだ。
眺める側とて、どうせすぐに慣れるだろう。
それよりも、《笑みを絶やさぬ支配者》のほうが、より不可解で不気味だ。
恐ろしい。
即ち。
つまらない有象無象を言葉で脅す手間の、殆どが省ける。
向こうで勝手に慄き、深読みし、『より良くなるように』動いてくれる。
そうして、反乱や反抗も知らない所で未然に防がれる。
───私は、今。
───いつものように《微笑んでいた》。
その貼り付けた笑みが、つい崩れそうになるが。
本当に笑いだしてしまいそうなのを、精神力でなんとか堪えている。
(これは、もしかしたら)
(一時的だとしても、ザンガスに匹敵するか?)
一服をつけて戻って来た直後。
タイミングを見計らったように押し掛けて来た、5名の嘆願者達。
その《言い分》に何度も頷き、真剣な表情で聞いてやりながら。
私は、彼等の不安と怯え。
そして。
僅かな切っ掛けで折れ砕けそうな『決意』を、悠然と楽しんでいた。




