645話 最終決戦 09
折り目の無い、5000札が一枚。
200硬貨が二枚。
合計で5400フォリント。
「はい、確かに丁度───では、3回どうぞ!」
「・・・・・・」
緊張の面持ちで『お嬢様』が、回転式抽選機のハンドルを握り。
ガラガラガラ───ガラガラ。
───ぽとり。
「・・・これは?」
「青の5番!
B賞、リュックサックですね!」
「!!」
美しい顔に喜びの表情を灯す、『お嬢様』。
降ろしていた左手を握って、小さなガッツポーズもあったぞ。
(いいねー!!)
(すごく、すごくいいッ!!)
一瞬だけの、ボーナス的アクションだ。
俺じゃなきゃ絶対、見逃すとこだったね!
背後の景品棚からB-5のリュックを降ろして、台に載せると。
「りっきー・・・ばるたん・・・!」
大切な友人のように、その名が呼ばれた。
寸胴のカレー鍋を横から抱える、牛の「りっきー」。
その蓋に乗って怒り顔で羽ばたく、ニワトリの「ばるたん」。
鍋蓋を上げれば閉じ口が開くという、上手くできたデザイン。
子供にも使い易いよう、リュックとしては小さ目ではあるものの。
1つの賞品に2キャラクター登場なのは、《美味しい》。
かなり豪華且つ、実用的なアイテムと言える。
これは間違い無く、B賞の中で一番人気のやつだ。
───しかし、それでも。
───それすらも凌駕するのが、A賞である。
とにかく、大きいぬいぐるみだ。
そして、大きいだけでなく、縫製の精度が高い。
『なんちゃって』なヤツとか、まあまあ似せたパチモンも出回っているが。
大体そういうのは小さい上に、粗雑。
色合いも表情も微妙というか、変。
それに対して。
まともに製造された公式認定のぬいぐるみは、完全に別格である。
しかも、まだ商品化がされていないらしくてさ。
ネットでは、呆れるような高値で売りに出されてたっけ。
くじを引く以上、誰だってA賞が欲しいだろう。
当たり前だ。
『お嬢様』だって、そうに決まってる。
けれど、あと2回だ。
最終日に訪れるくらいだから、これが最後。
本当に最後のつもりで来てる筈。
俺としちゃ、”はい、あげますよ!”って渡してあげたいところなんだけど。
くじを業者に返却する際、出玉と残り玉のチェックがあるらしい。
勿論、不正防止の為、抽選機にはロックが掛けられている。
無理矢理こじ開けても、内部で開閉回数が記録される、って説明されたっけ。
やっぱり、ズルは出来ないよなぁ。
それに、自分で当てたいからこそ、引くんだろうしさ。
牛とニワトリを優しく撫でていた『お嬢様』の手が、ゆっくりと離れ。
「・・・・・・」
「どうぞ!」
さあ、2回目だ。
当たれ!
当たってくれ!
景品はどれも、たんまり残ってるんだよ!
クリアファイルとかセコい事言わず、出てくれよA賞!
ぬいぐるみ、来い!
お前らだって業者に回収されるよか、『お嬢様』のトコへ行きたいだろ!?




