644話 最終決戦 08
───俺は、2つの『幸運』に恵まれた。
───それを瞬時に自覚して、深く運命に感謝した。
まず1つ目は。
『お客様』としてはともかく、出会うの自体は、初めてじゃあなかった事。
両親と毎月訪れている、山の上の屋敷に住んでる『あの御方』。
TVや映画に出てる芸能人のような、いや、それ以上の美貌の。
正真正銘、完全完璧の、絵画の世界から出て来たような『お嬢様』だ。
こんな近距離で初顔合わせだったら、俺、腰も魂も抜けちまって喋れない。
接客なんか、出来る訳がないぜ。
そして、2つ目は。
入店された『お嬢様』が、脚を止めた位置。
先月までは、売れ残って埃を被ったパーティーグッズの山があったのだが。
現在は全て倉庫に仕舞い、代わりに急ごしらえの延長カウンターを設置。
そこへ置いたのは。
『5月の|Fun Fun Draw 〜 We are Monsters!』。
本来は、ウチみたいな小型店には縁が無い、《キャンペーンくじ》だけども。
”儲からない”と愚痴るばかりじゃアレなんで、努力した。
コンビニの店長をしてる友人に頼み込み、業者を紹介してもらったのだ。
・・・正直に言おう。
客がこのくじを引いたところで、全くこっちの儲けにはならない。
こういうのは、元から売り上げが多い店舗が、更にそれを伸ばす為にある。
《くじのついでに、他の買い物もさせる》。
要は、客寄せのシステムなのだ。
まあ、くじの業者としては、くじさえ売れりゃ儲かるからな。
とにかくあちらさんは、場所を確保したい。
売れそうな店に置いてもらおうと、営業する訳だよ。
ウチはあからさまに、めっちゃ嫌そうな顔されたぜ。
一目で『潰れかけ』と分かる、ボロっちい玩具屋だもんな。
そして、《キャンペーンくじ》の稼働から一ヶ月。
非常に残念だが、実際にこれを引いた客は、2人のみ。
合計2回。
最終日の本日まで、たったそれだけだ。
───しかし、俺は。
───業者に頭を下げまくった、あの日の俺を褒めてやりたい。
「・・・《わくわくくじ》を3回、引きたいのだけれど」
宝石のような、美しい唇で。
しかし、段々と声が小さくなり、恥ずかしそうに俯く『お嬢様』に。
うおおおお!!
俺のテンション、《爆上がり》だぜ!
ついさっきまでエロいオッサンのギターを聴いてたから、余計にだ!
「はい!3回ですね!」
万歳ッ、万歳ッ!
《ウィーモン》万歳ッ!
稼ぎなんかもう、どうだっていいや!
俺は!
《ウィーモン》のお陰で、『お嬢様』という《特賞》を引き当てたんだよ!
吸血鬼、万歳ッ!!
この地に生を受けた事を、祖先に大感謝だ!!




