641話 最終決戦 05
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───こんな事になってしまった原因。
───『始まり』は、2ヶ月ほど前まで遡る。
月に一度の、領地住民による《奉血》。
それは必ず、私自身が中庭に出て立ち会い。
彼等一人一人に、滅菌処理を施した『使い捨て針』を手渡し。
そうして各自から一滴ずつ、血を受け取っているのだが。
───そこに来ていた、一人の少女が気になった。
初めて見る顔で、しかも、5歳か6歳かという幼さだ。
両親に手を引かれているけれど、はたして《奉血》はその子の意思か。
無理矢理に連れて来られたのではないだろうか。
私としては、どうしてもそこを確認しておく必要があった。
ズィーエルハイトの樽に入れてもよい血なのか、否か。
《奉血》には如何なる強制も悲しみも、あってはならないのだから。
”───今日は”
”こんにちは、吸血鬼のおねーさん!”
”貴女は、どうしてここに来たのかしら”
”おねーさんに、みんなが安心して暮らせるように、お願いするため!”
元気良く。
当然とばかりに答える少女の顔には、僅かな曇りもなかった。
”そう───そうなの───有り難う”
”でも、血を貰う為には、針を刺さなくてはいけないのだけど”
”うん!”
”少し、痛いと思うわ。大丈夫かしら”
”だいじょうぶ!”
”貴女は、針が怖くないの?”
”へいきだよ!”
病院でのワクチン接種などで泣き出す子供もいる、と聞いていたが。
少女は怯えもせず、背負っているリュックの右側を私に見せた。
”ほら、これ!
『はなこ』と『ばるたん』が、勇気をくれるから!”
ファスナーの引き手に揺れる、キーチェーン。
その端にぶら下った、可愛らしいウサギとニワトリのマスコット。
(成る程・・・これが、この子の《御守り》なのね)
私達ズィーエルハイトは、領地の住民を守る。
吸血鬼やその他の『人ならざる者』から、この地を護り通す。
だが。
それは決して、目には見えない。
殺す事も、殺される事も、彼等の知るところではないのだ。
どれだけ私達を、信じてくれていても。
人間の暮らし、日常の中に、ズィーエルハイトは居ない。
重ならない。
現実的に、目の前の少女を助けるのは。
寄り添い守ってくれるのは、この《小さな動物のマスコット達》だ。
単なる玩具だと誰が笑おうと、彼女は強く信じているのだ。
大袈裟かもしれないが、『それら』の存在は『伝来の妖族』に等しい。
怖がりの人間達が生み出した、ほんの少しの『優しい幻想』。
『希望』。
ある意味、ズィーエルハイトの同志とも言えるだろう。
───そう考えれば。
───私にも、そのウサギとニワトリが頼もしく思えた。
もっとシンプルに、”可愛い”とも感じて。
だから。
ノートPCで検索してみたのは、当然の事だった。




