640話 最終決戦 04
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有り体に言って。
”クライスは、逃げ帰った”。
それは、私にも分かる。
頭を冷やさせる為の。
現状から未来に向けて、とんでもない位置に着地しない為の。
分家衆・筆頭として後先を考えた上での選択だとも、理解出来る。
───けれど、それにしたって。
───ちょっと私を、《危険物》扱いし過ぎではないだろうか?
ハンガリーどころか、異なる国の、異なる種族さえ震え上がらせる存在。
『狂気の暴力集団』ズィーエルハイトの、本家頭首。
ファリア・ズィーエルハイトは俯き、悲しい溜息をついた。
(私だって、ただ暴れたいわけじゃないわ)
(勝つ為に)
(勝てるからこそ、闘うのよ)
殴りたいのではなく、殴る必要があるから殴るのだ。
それを《脳筋》だのと揶揄されては、頭首の努めが果たせないではないか。
───ああ、いや。
───気を鎮めよう、これ以上《脳筋》呼ばわりされないように。
壁時計の示す時刻は、15:28。
支度して、16:00には屋敷を出たい。
徒歩でゆっくりと山を下り、街の中心部へ。
目的地には17:00頃に到着するのが理想だ。
これまでの《戦い》、その結果は・・・何とも微妙な判定。
《負け》ではないけれど、誇るような《勝ち》でもない。
最終日である今日は、気持ちを込めるだけでは駄目だ。
全然足りない。
新たな、違う事をしなくてはいけない予感がする。
───そうだ。
───今回は、何の《隠蔽措置》もとらずに行こう。
『意識逸らし』を使わず、ありのまま。
普段の姿そのままで、堂々と歩いてみよう。
それが直接に勝敗を左右することは、無いと思うが。
けれど、全くの無意味だとは言い切れない。
もしかしたら運命の天秤が、1%だけでも良い方向に傾くかもしれない。
現在までの投資金額は、3万6千フォリント。
間違っても、ズィーエルハイトの資産には手を付けていない。
全額、個人的な支払いだ。
けっして格好は良くないし、褒められた事でもないが。
それでも、自分のみで動かせる自分だけの分。
そこから、常識的な金額だけを使ったにすぎない。
・・・・・・多分。
とにかく、これで最後だ。
絶対、最後にする。
ラスト3回、5千400フォリント。
どんな結末を迎えようと、ここが《引き際》だろう。
私だって、我儘を通そうと泣き喚くような子供ではないのだ。
これ以上の醜態は晒せない。
何があっても、これで最後だ。
《最後の戦い》にするのだ。
───『5月の|Fun Fun Draw 〜 We are Monsters!』。
───その最終日。
『鮮血の獣』の異名すら持つ、ファリア・ズィーエルハイトは。
どうしても。
本当は個人口座を空にしても良いくらいに。
A賞のぬいぐるみが欲しくて、たまらなかった。




