表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
636/742

634話 no malice 05



(・・・・・・)



天使()は、動かない。

もはや、呼吸(いき)をしていない。


それは確かだ。


これまでに散々こいつらの死体を検分し、分解(バラ)してきた僕だ。

目の前に倒れたそれが、確実に死んでいて。

絶対に『偽装死』ではないことは、良く分かる。



(・・・やったぞ・・・)


(ついに天使を、殺してやったぞ!)



こうやって【仮想分体(フェイカー・リグ)】を使っていなきゃ、体が震えただろう。

涙を流し、膝から崩れ落ちていたかもしれない。


死体でない限り、傷一つ与えられない『天使』を。

まともに相対すれば秒殺されるだけの、恐るべき『天使』を。


僕は、初めて殺した。


自分で手を(くだ)した訳じゃあ、ないにせよ。

《死ね》と強制して、《自死》させた。



殺したんだ!

数え切れないほど殺されてきた《仲間》の分を!

たった一人分だけでも、やり返せたんだ!



ざまあみろッ!!

本当に、無様にくたばったぞ、こいつ!!


何が『分からない』だ、くそったれ!

意味不明な事を、抜かしやがって!


それはな、間違っても《優しさ》なんかじゃないんだ!

お情けを貰って”有難う”と返せるような次元は、とっくに越えてんだよ!


《優しさ》なら、僕のほうからくれてやるさ!


お前の死体を蹴るのは、勘弁してやろう!

持ち帰って使ったりせず、このまま捨て置いてやるよ!


それで十分だろッ!?

上等過ぎるくらいだよなッ!?



仮想分体(フェイカー・リグ)】が、断続的な動作エラーを報告している。

本体()』から流れ込む感情を再現しきれず、高負荷(ビジー)状態だ。



───ああ、落ち着け。


───落ち着いて、次の行動に移るんだ。



急げ。

このまま、いつまでも感傷に浸っていたらダメだ。


動画サイトに一斉送信された《救援要請》。

それは当然、各地の天使の目にとまっているだろう。

専門部署に所属する奴等なら、まず見落とすわけがない。


そこに加えて、さっきの『隠蔽解除』だ。

絶対に来るぞ、天使の集団が。

最低でも、包囲の準備くらいはしてる筈だぞ。



(脳内の興奮物質、及び神経の過剰反応を50%カット)

(表情筋の再現を、全カット)



もたもたしては、いられない。

気を取り直し。

崩れかけの建物の、すでに無くなった扉部分から中へ入る。



───想像通り、内部は荒れ放題。


ボルトで床に固定されたデスク、そこに散乱する茶色く変色した書類。

けれど、その内容に目を通している暇は無い。


距離も方向も、すでに把握済みだ。


無造作に紙束を突っ込んだ、錆だらけのスチールラック。

これの向こうに、『隠し部屋』がある。

それさえ分かってりゃ、無駄なアクションは必要無し。


ラックを横にスライドさせるだとか。

その為の『持ち手』を探すだとか。


そういうのは完全に無視で、『向こうへ抜ける』。

事実上の『透過』で直接、目的の場所へと移動する。



───そして。


───本当に申し訳なく、失礼な事だとは思うが。




僕は、そこに横たわる《仲間》。


『彼女』の姿に驚愕し、立ち尽くしてしまった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ