表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
634/740

632話 no malice 03


「───私が此処(ここ)で彼女を見付けたのは、8年前だ」



くすんだ銀の髪を風に(なび)かせ、天使()が言う。



「すでにその時から、《状態》は良くなかった。

彼女は自分の脚で立って動く事が出来ず。

意思の疎通は可能であるものの、数日に一度しか発語がない。


どうにかしたい、とは思えど。

私には、それを改善する(すべ)が無かった」


「・・・・・・」


「同じ場所に長く(とど)まれば、誰かに気付かれるやもしれぬ。

私としては、何としてでも移動させたかったのだが。


彼女は、断固としてそれを拒否した。


勿論、天使を信用出来ないのは当然であるし。

そこに加えて何か、《この場所》に居なくてはならない理由もあったようだ。


そして。

それは現在(いま)に至るまで語られず、解明されていない」


「・・・・・・」



『理由』か。

不調を押して、こんな廃墟に身を置く『理由』。


僕には、大体の予想がつくよ。


残念だけど───”もう意味が無い”、って事も含めて。



「何一つ状況が好転しないまま、月日が流れ。

その間にも彼女の具合は、更に悪化し続けた。


今年に入ってからは、呼吸こそしているが、意識が断続的に途絶えている。

体の一部に壊疽(えそ)を生じ、左前腕部が折れ砕けた。

神経反射や瞳孔の反応も、日毎に弱まっている」


「・・・・・・」


「同じく、彼女を(かくま)っていた私のほうも限界だ。

行動の不自然さを疑われたか、やんわりとではあるが、監視されている。

《救援要請》を発信したことにより、疑惑は『容疑』になった筈だ。


此処(ここ)に踏み込まれるのはもはや、時間の問題だろう。

そうなる前に、」


「喋りまくるのは一旦、ストップだ」



冷静に、慎重に。

思考と感情をクールダウンさせながら、口を挟む。



「いい加減、僕にも話をさせろよ。


なあ。

今アンタが言った《状況説明》を信じる、信じないは別として。

一番肝心な部分(ところ)をボカしてるのは、何故だ?」


「──────」


「何で、『彼女』を助けたがる?

即座に始末するのが当たり前の、天使(アンタら)が。

どういうメリットと引き換えで見過ごし、殺さなかった?」


「──────」


「さあ、ペラペラとカッコいい事を言ってみろ。

どうせ嘘をついたところで、僕には見破れないからな。

多少はハナシが破綻してても、勢いで押し込めるぞ?」


「───それは───」


「どうした?

事前に台本を読み込んでなかったか?

咄嗟にアドリブもかませない、ってか?」


「いや────これを伝えるのは得策ではない、と思うが」


「何だよ」


「何故、殺さなかったのか。

何故、助けたいのか。


それらに、《答え》は存在しない」


「はあ??」


「分からない。

どうしてそうするべきだ、と思ったのか。

したのか。


私には、それらを説明できない。

何も分からない───ただ、それだけだ」


「・・・へぇ〜〜。

そうか、『分からない』か〜」


「──────」


「ええと、8年間だっけ?

それだけの期間(あいだ)、他の連中にバレもせずに過ごせたのは。

隠蔽する技術を持ち合わせていたのは。


アンタが、ただの天使じゃないからだよな?


僕らを探して始末する、専門職とか、部隊とか。

そういうやつの一員だろ、お前」


「──────」


「これまでに何人、殺してきた?

せっかくだから、ちょっと自慢してみろよ、僕の前で。

なあ?」


「───2561」



精一杯の皮肉を、ものともせずに。

感情の無い一本調子な口調で、男が答える。



「私が《規格外品》を『削除』した回数は、2561だ」


「そりゃ凄い!

で、その数字は、アンタの同僚と比べてどうなんだ?

頑張ってるほうか?

それとも、恥ずかしいような成績か?」


「平均より高い、と評価されている」


「そうか、そうか!

おめでとう!

そんな優秀な天使様に出会えて、気絶するくらい嬉しいよ!」



───笑いながら。


───渾身の演技で笑みの形を作りながら、拍手した。



ただし、音は響かない。

この体は、【仮想分体(フェイカー・リグ)】だから。


おまけに。

手の平ではなくて甲を合わせる、『裏拍手』だから。


どうせその意味を知っていたって、気にもしないだろうけどな。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ