631話 no malice 02
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真っ二つに割れた、人間大のティーカップ。
半数が地上に落下している、『歯抜け』の観覧車。
頭が無い、元は白かっただろうメリーゴーランドの馬。
───廃業し、半世紀あまり放置された遊園地施設。
夢の跡地は、廃墟と化せば余計に残酷で。
錆びたレールも干上がった池も、月明かりの下では一層おどろおどろしい。
まるで、人体の内部。
血管や臓器を、これでもかと見せ付けるように。
ましてや、場所と年代的に『旧ソ連の遺産』ってやつだ。
ごく普通の民間会社や工場ですら、軍の隠し部屋が発見されるというからな。
ここにもそういうのがあったところで、不思議じゃないぞ。
ポンプ室やボイラー室の、隙間とかにさ。
ホント、『夢』の欠片もありゃしない、ホラーな舞台だね。
───枯れ枝か朽ちたトタンか不明なのが散らばる、道無き道。
───ただし、歩けども物音は立てない。
立つ筈がない。
当たり前だ。
今僕が使っているのは、【仮想分体】だ。
こんな怪しさ満点の呼び出しに、直接出向く馬鹿はいないだろ。
心底ビビりまくってんだよ、こっちは。
遠距離コントロールの、使い捨てボディ。
何かあったら速攻、接続を切ってサヨナラする作戦だ。
経路の途中にはダミーをしこたま挟んでるから、拠点までの追跡も不可能さ。
この際、カッコ悪さなんか気にしてられない。
念には念を入れまくる。
そうじゃないと、僕らは本当に・・・・・・ああ。
ほら見ろ。
やっぱりな。
「───ようやく来たか」
案内所かチケット販売所だったろう、コンクリの外壁が割れた建築物。
その陰から、幽鬼のように現れた天使が呟いた。
「正直、無視されて終わるかと思っていたぞ」
「よく言うよ。
実のところ、そうでもないクセにさ」
「──────」
「それで?
《救援要請》を発信したのは、アンタかい?」
「ああ」
「じゃあ、これで用件は済んだな。
悪いが帰らせてもらう。
精々、泣きながら始末書でも書いて上役に叱られろ」
「待て」
「待つかよ、アホ天使」
「彼女を、助けてほしい」
「・・・ああ?『彼女』?」
「お前の仲間だろう。助けてやってくれ」
「はっ、どこの誰様の事だか!
此処には、僕とアンタしかいないだろ。
そういうのが分からないとでも思ってるのか?」
「今は隠蔽しているだけだ。
短時間、それを解除する。
その間に、私が言っている事が真実かどうか判定してくれ」
「・・・・・・」
「───解くぞ」
「・・・・・・!!」
その瞬間。
僕にも、はっきりと『分かって』しまった。
嘘だろ!?
横の建物の奥、おそらくは『隠し部屋』の中。
本当に、《仲間》がいる!!
間違い無く、僕ら特有の生存反応がある!!
これは。
『彼女』は、僕や僕の友人と同じ世代の。
最も初期に絶滅させられた、もう生きていない筈の《仲間》だぞ!!
「───すまないが、ここまでだ」
「・・・・・・」
「これ以上の解除継続は、危険だ。追っ手がかかってしまう」
「・・・・・・」
たちまちに、再度の『隠蔽』とやらが行われて。
生存反応が、完全に途絶えた。
僕の力をもってしても、何ら感じ取れなくなった。
そして、天使はもう一度。
陰鬱な暗い表情で、僕に告げた。
「どうか───早急に彼女を、助けてほしい」




