表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
632/741

630話 no malice 01


【no malice】



”───Security against Fear───Security against Fear”


”現状にて、生命存続の可能性無し”


”ロケーションコード 6A138DE403,CF668054KD,573L9S806B”


”───Security against Fear───Security against Fear”




ノートPCの画面に映っているのは、ホワイトノイズ。

一般に言うところの、『砂嵐』だ。


音声は一切、出力されていない。


どんなに頑張って寄り目で見ようとしても、無駄。

立体画像じゃないから、平行法も交差法も意味を()さない。


この映像は、《分かるやつ》にしか分からないのだ。

該当者以外にとっては、本当にただの『砂嵐』。



「・・・・・・」



《ミスター独り言》と自分に名付けるような僕でも、言葉がないね。

出て来るのは、深い溜息だけだ。


昨日の夜から、これと全く同じ映像が各種動画サイトに上がりまくっている。

イタズラと判定されたかクレームが付いたかで、その幾つかは削除済みだが。



───このメッセージを、どう(とら)えていいのやら。



内容としては、《仲間》からの典型的な《救援要請》。

即ち、90パーセント以上の確率で、天使共が仕掛けた(トラップ)だ。


うん。

どう考えても普通に、見え見えの『釣り針』だよな。

まあ、こんな安っぽい罠に引っ掛かる《仲間》も、いやしないだろう。


暗号コードなんて、とっくに知られてる。

僕らも、知られていることを理解している。

奴等はこれを、解析する必要すらなかったんだ。

捕らえた《仲間》の(あたま)から、抜き出しただけの話。


当然、そんなものを発信されたところで、無視するのが一番なんだけども。



───問題は《これ》が、とても古い書式で。


───現代ではとっくに使われていない、骨董品レベルだという事。



世代的には、僕のすぐ下あたり。

とっくに絶滅している筈の《仲間》が使っていた暗号だ。


何で今更、こんなものを餌として選択するのか。

必死で世界中に流す必要があるのか。



昔と違い、僕はよほどの知り合いじゃない限り、《仲間》と付き合わない。

極力、縁を持たないように気を付けている。

そうする事で、少しでも彼等の安全性を高めたいから。

巻き添えで殺されてほしくないから。


加えて、僕自身も天使が恐ろしいし、処分されるなんて御免だ。

生きるも死ぬも、自分の意思で決めたい。

神の如き冷酷さで不良品のように扱われたくない。


『他の世界』へ泳いで渡る勇気は、無かったけれど。

”弱いから”と、存在を諦めるほど生命を軽視してもいない。



ああ。

グダグダと言い訳するのは、()めにしよう。



つまり、僕は自分の命が一番で。

その次に、昔からの《仲間》が大切で。

その他の《仲間》を助ける余裕は無い。


可哀想だが、力を貸してはやれない。

見つかれば、即座に消される。

何の抵抗も出来ない。

リスクが大きすぎる。



───それでも、《これ》は。


───この《救援要請》は。



0.001パーセントの確率で、本物だとしたら。

僕と同じくらい古い世代の奴が、まだ生き残っていて。

他の《仲間》を巻き添えにする可能性を知りつつ、こうするしかない状況で。

最後の最後、一縷(いちる)の望みをかけて発信しているのだとすれば。



そいつは今、どんな気持ちなのだろうか。

涙さえ、()れ果てようとしているのか。



そう考えてしまうと、もう。

物書きをやってるどころじゃ、なくなってしまった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ