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628話 走って止まって、気にしない 04


故郷を離れ、ファリアちゃん(とこ)に拾われ。

人間や、人間じゃない奴等と一緒に暮らすようになって、随分と経った。


自分で自分を持ち上げるのは照れるが、精神的にも成熟した狼になった。


昔と違い、今の俺は結構、周囲(まわり)を信用している。

一々疑ったりしない。



───目の前に、ででーん!とステーキを出されりゃ、食うよ。


───”お代わりが要るか”と聞かれたら、当然頂くワケよ。



そんなこんなで、昼食をご馳走になり。

たっぷりとデザートを振る舞われ。

更には夕食までも、存分に食いまくった俺だが。


”泊まっていけ”と(すす)められちゃあ、断るという選択肢は無いね!


いや、遠慮したほうがいいかな、とは一瞬思ったけどさ。

ビエラちゃんも当然、ここに泊まるんだろ?

一緒に来たんだから、一緒に帰るのが自然だろ?


俺だけで戻ると絶対『あの3匹』が立ち塞がるから、面倒臭いし!




「───これくらいで、いいかね?」


「あ、どうも。スンマセンねー」



金属製のマグカップに注がれたウイスキー。

軽く頭を下げて礼を言い、一口含む。


あーー。

酒だ。

やっと、酒にありつけたぜ!


食事ん時は、全くアルコールが出てこなかったからなぁ。

いきなりの訪問者だし、文句をつけるような立場じゃあ、ないんだけども。



春とはいえ、山の夜は覿面(てきめん)に冷え込む。

獣狼族(ライガルフ)でも、寒いもんは寒い。

焚き火の炎が無きゃ、屋外に出たくはないわな。


それを、わざわざ薪を割って、火をおこして。

庭先にテキパキと快適空間を作ってくれたのが、ビエラちゃんの父親だ。


自家製ソーセージだってあるんだぜ。

最高じゃん!



「───結構、飲めるほうかい?」


「ええ、そりゃもう!」



椅子代わりに座った切り株、その隣。

()いでくれたオッサンのカップにも、()ぎ返して。



「酒飲みは、自分しかいなくて───嬉しいよ」


「俺なんか、『飲まずに生きるのは無理!』ってくらいで!

わははは!」



ぽつぽつ、と小さな声で話す、このオッサン。

ビエラちゃんから聞いてた通り、《ザ・山男》な見た目だなー。


デカい体に(すげ)ぇヒゲ面、都会暮らしは全然似合わないタイプで。

けど、よくある《自然愛好家》とも違う感じだ。


”山を愛してる”だの、”不便や困難を楽しむ”だの。

そういう聴き映えのいい『お題目』とは無縁。

ただ吹き抜ける《風》みたいなオッサンだよ。



『電気も道具も使うが、使わないのもまた、当たり前』。



やっぱりさ。

あるがまま生きてたら、山に居ました───それこそが《山男》だよな。


大自然ってのは、人間がいくら憧れたところで冷酷非情だぜ?

街からちょっと出れば、身ひとつじゃあ一晩さえ過ごせない。

命の危険だって、幾らでも転がってるさ。


『好き嫌い』や『憧れ』なんざ無力だよ、自然の前では。

あと、他者(ひと)を巻き込んだり、見せびらかすようなモンでもない。


キャンプしたい奴は、一人で勝手にすりゃいいのよ。

騒がず、ゴミを放置せず帰るなら、”ご自由にどうぞ”だ。



───ただ、《狼の目線》で言うと、最近の『山事情』はさぁ。


オッサンみたいな《山男》の数が減って。

《人間》みたいなクマが増えまくってんのが、ヤバいんだよなー。




「・・・ところで、カールベン君」


「ひゃはっ、い?」



熱々のソーセージに(かぶ)り付いたところで、声が掛かって。




「君は・・・娘に《飼われる》のかね?」


「ッ!?・・・んぐッッ!!」



おいおい!

変なトコに入りかけたよ、でかい塊が!

タイミング(わり)ぃよ、オッサン!!



「い、いや!・・・それ、ドコ情報っすか?」


「・・・・・・」


「本人が言ってたんすか?」


「・・・いや」


「ひょっとして、アスランザから?」


「・・・・・・まあ、そうだな」



あのアホ犬めええぇッ!!


何が《秘密の話》だ!

普通に喋りまくってんじゃねぇか、コラ!


しかも、アレだ!

このオッサン、もしかしなくても───



「あいつの言葉、分かるんすか?」


「・・・ああ」


「そんじゃ、『俺の事』も何か、分かりますかね?」


「・・・『人間ではなくて、狼だ』くらいには」


「それは、アスランザから聞いたから?」


「いや。自分の目で《見て》、そう思った。

銀色の狼だ、と。


そして、君の中に『もっと大きな狼』がいるのも、感じた」


「・・・へええぇ」



さっすがオッサン。

本物の《山男》してるだけあるわ。


俺の毛皮の色が見えて。

ゼラの事まで分かんのかよ?


ひょっとすると、アレか?

俺がどれだけ食っても驚かず、次々に料理を出してくれた奥さんのほうも?



ここの家族。


『ビエラちゃん以外』の二人と一匹が、俺の正体を知ってるってこと!?



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