627話 走って止まって、気にしない 03
「ちょっ・・・待て待て待て!
何言ってんだ、おい!
《飼う》って何だよ、《飼う》って!?」
”お前は人間に化けているくせに、言葉が分からないのか”
哀れみをたっぷりと含んだジト目で、溜息をつくボルゾイ。
「いや!ええと、その!」
”《飼う》というのは、だな。
決められた時間に、食べ物と水が与えられ。
決められた時間に、思い切り走って。
たくさん人間がいる場所を歩く時や、夜の間は首輪に鎖が掛けられる。
そういう事だぞ?”
「・・・何だ、思ってた通りか!」
”お前にとって、良い話だろう?”
あのなぁ。
そう嫌そうな声で言われちゃ、次の言葉が想像できるってモンだぜ。
”アスランザにとっては、悪い話だが”
ほらみろ、やっぱり!
「なあ、本当にビエラちゃんが俺のこと、《飼う》って言ったのか?
本当の本当に確定なのか、それは?」
”本当だ。アスランザは確かに聞いた。
『頑張って、絶対にそうしてみせる』と、はっきり言っていたぞ”
「・・・・・・」
”少しも嬉しくないが、御主人の決めたことだ。
反対はしない。
しないが、狼よ”
「あん?」
”お前が御主人の、《飼い狼》になった場合は。
まず、御主人。
次に、御主人の家族達。
その次が、アスランザで。
お前は最後に来たのだから、一番下だぞ。
分かったな?”
「・・・あーー。まあ、うん」
理屈としては、正解だ。
それで合ってるよ。
”どうした、狼。
もっと嬉しそうにしたらどうだ。
お前は、御主人の『脚が好き』なのだろう?”
「え?憶えてたのか、それ」
”御主人は普段、街で暮らしているが。
《ソツギョウ》したら、ここへ帰ってくる約束だ。
そうなれば『脚』くらい、いくらでも見れるし、舐めてもいいのだぞ?”
「いいのかよ?」
”勿論だ。アスランザも、そうしているぞ!”
いや。
その後に俺が舐めるってのも、どうかと思うけどさ。
「うーーむ・・・これは、悪い話ではない・・・のか?」
”だから、そう言ったであろう、狼よ。
ただし、これをアスランザが教えたとは、言ってはならないぞ?
御主人から直接に聞いた時、何も知らなかったふりをして喜べ。
そして、感謝を込めて飛びつき、顔でも脚でも舐めればいいのだ”
「・・・いいのか?」
”いいのだ!”
そうか?
やけに自信たっぷりに言うが、いいのかねー、これ?
試しに想像してみたら、楽しそうな感じはするぜ?
感じは。
たださぁ。
実際に鎖で繋がれちまうと、若干の問題があるんだよな。
俺、ファリアちゃんから色々と役目を貰ってるワケで。
これでも、裏街の《顔役》だぞ?
領地線の監視だって、定期的にしなくちゃいけないし。
───時々、鎖を切って脱走すりゃいい、って事か?
───先輩であるアスランザを見習って。
むむうー。
いやいやいや、イカンだろ!
俺だけで全部決めるのは、良くない!
飼われるにしたって、準備が必要だ。
『脚』の事とか、ちゃんと説明しないとさ。
絶対、ファリアちゃんが誤解してしまうだろ!
盛大に嫉妬するよ!
それは困るぜ、マジに!!




