625話 走って止まって、気にしない 01
【走って止まって、気にしない】
『獣狼族・三原則』!
その1!
《とにかく走れ》!
その2!
・・・なんだっけ?
あ〜〜。
《時々は、止まれ》??
その3!
完全に忘れた!!
───俺は今、すこぶる調子がいい。
───大体いつでも好調だが、今日は特に、ウルトラ調子いい。
何せ、給料日の翌日だ。
たんまり金がある。
ここから一週間くらいは、小難しい計算無しで余裕の生活が可能だ!
好きなだけ食い、浴びるように飲んでオッケー!
実際、昨夜はお楽しみだったぜー、うひゃひゃひゃ!
ツケもちょっとだけ、払ったしさ!
これでまた、いざという時に『ツケれる』ぜ!
天才だな、俺!
なんかこう、経済を回してる実感があるぞ!
とまあ、気分上々でイイ感じの最中に、だ。
例の『いい脚』したコ・・・ビエラちゃんとバッタリ出会ったワケよ。
そしたらさ。
”これから月イチの《実家帰り》するところだ”、って言うじゃん?
そりゃもう、送ってやるよ。
わざわざバス代なんか払うこたぁないぜ。
俺の車に乗ればタダだし、よっぽど早く着くだろ!
うん。
ビエラちゃん乗せてるから、安全運転だけどさ。
でも、それなりに速度は出してるんだけどさ、今。
───ずっと、ついて来てんだよ。
なんかこう、車道脇の山ん中に。
普通の奴は多分、分からないだろうけども。
《狼形態》の獣狼族が、三匹ほど。
───いや、何でだよ。
誰だ、お前ら?
車と競争する遊びって、いまだに流行ってるのか?
俺はもう、とっくに卒業したぞ?
斜面の木立ちに隠れたまま並走するとか、ご熱心なこったが。
いい加減、止めてくんねーかな。
どこの氏族だか知らねーけどさ。
そもそも俺、同族連中の事は好きじゃないんだよな。
さっさと撒いてしまいたいが、流石にこれ以上スピードは出せないし。
どうしたもんだろな。
「ビエラちゃん、車酔いとか平気か?」
「うん、大丈夫!
有難うね、カールベン。バスを待たずに済んで、本当に助かったわ。
この路線、二時間に一本しか来なくって」
「あーー。土日と祝日は更に減便、ってやつだな」
「そうそう!」
何事もないように装い、会話してるけども。
その間も、しつこく狼達がついてきやがる。
マジでイライラすんなー、これ。
楽しいドライブを邪魔すんなよ、お前ら!
そこらで一旦、車を停めてさ。
”用足しだ”って、ちょいと離れて。
こいつら、サクっと『のしちまう』かね??
──────。
───いや───待てよ。
もしかして。
もしかすると。
これは万分の一の、更に万分の一くらいな可能性に過ぎないが。
悪いのは、俺のほうか?
山2つ越えたってコトは。
《この辺》ってまさか、《ガニア領》?
このウザったい狼共は、『領地線の警戒班』?
──────。
───ま、いっかあ!
侵入ってしまったモンは、仕方無ぇや!
通るだけだ、通るだけ!
侵入者は大概、そう言うんだけども!
連中は仕事だから、そりゃもう必死に追跡してくるが。
けど、ビエラちゃんという『人間』がいる以上、実力行使はできないんだろ?
多分、できないよな??
くっくっくっ!
残念だったなぁ、諸君!!
俺達、事実上のフリーパスだぜッ!!
うわはははははッ!!
よし!
戻ったらすぐ、ファリアちゃんに自慢しに行こう!
”俺様、ガニアの領地線をブチ抜いてやったぜ”、ってな!




