624話 表彰される??いやあ、身に余る光栄ですねぇ! 03
明らかに手入れのされていない、荒れ果てた庭に降り立ち。
男は即、勝手知ったる場所のように歩き出した。
行き先は───物置きというより倉庫という規模の、外観は簡素な建物。
その鍵が掛かっていない扉を、遠慮無く開き。
中に入った後、持ち上げられた床板の奥に階段が見えても、躊躇わなかった。
「こんにちはー。
あ、お仕事中、すみません!」
「えっ!?」
細く急な階段を降りる途中で、ちょうど階下から上がってきた者。
驚愕の声が発せられど、やはり意に介すことなく。
「『エブリデイ・ライク・ヘル放送』の、オルトゥと申します!
お荷物、お持ちしましょうか?」
「い、いや!・・・ちょっ・・・その??」
両手で木箱を抱えた相手が、じりじりと後ろ向きに降り始め。
それに合わせて男が、一段ずつ距離を詰めてゆき。
───最後まで降りきった場所は、けっして狭くはない地下室。
───そこにいた者達も当然、戻ってきた者と同じ反応を示し。
「すみません!
いきなりですけど、お邪魔いたします!」
「・・・え??」
おかしな事を元気良く堂々と宣言する男に、ビシリ、と硬直する場。
「おやおや───これは素晴らしい!
見渡す限りの、宝の山ですね!」
「・・・・・・」
「私、無学ですので、こういった美術品の事は全く分からないのですが!
そこに置いてある絵は、ひょっとして!
マークラデル作・《朝霧の水銀邸》では?
それも、コンテスト出品作ではなく、知り合いに贈った《初作》!
より『彼らしい技法が顕著だ』、と評されているほうの!」
「・・・いっ・・・いや・・・」
「もしも『贋作ではない』とすれば。
ダバス市の美術館から盗まれた後、回収されましたが当の美術館が閉鎖になり。
競売へ掛けられて落札したのが───ええと───」
「・・・・・・」
「そうだ、思い出した!
『旧・評議会』の議員だった、ルッカス氏ですよね!?」
「・・・・・・」
どう見てもマトモな職業には思えない、サングラス着用の輩が6名。
皆、一様にうつむき加減。
この話題を好ましく受け止めていないのは明白だが、男はそれを完全無視だ。
「氏の財産が押収される直前、『これら』は別の場所へ逃され。
現地検分や調査が完全に終わってから、またここに戻されて。
それを、《清掃会社の社員》である皆様が、偶然に発見した、と。
───そういう事ですか?」
「・・・あ、ああ・・・」
「じゃあ、『お役所』に届けなきゃいけませんね!」
「・・・お、おう・・・」
「ご安心ください、すでにうちのスタッフが連絡しています!
これだけの量ですから、運び出すのは大変でしょうけど!
応援が沢山、来ると思いますよ!
すぐにでも!」
ぱんぱん、と肩を叩かれた一名は、その軽やかな音とは裏腹。
死神に触れられた如く一層項垂れ、もはや溜息も零さない。
「───あ、そうだ!
一応仕事中なので、天気予報をお伝えしておきますね!」
「・・・・・・」
「やたらと元気な高気圧が幾つも、迷惑なくらい広がっています!
明日から概ね一週間は、『全獄』的に良く晴れるでしょう!
屋内においても、熱中症にお気を付けください!
こまめな水分補給を忘れずにどうぞ!
窓一つ無い部屋から出られないような場合は、特に注意してくださいね?」
「・・・・・・有難うよ・・・」
過大な実行力を備えた男による、ごく当たり前な《まちかど♪天気予報》。
ドタドタと激しい靴音が、地下室の天井付近で響き。
スタジオから届く音声もまた、同じように騒がしいものであった───




