表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
626/743

624話 表彰される??いやあ、身に余る光栄ですねぇ! 03



明らかに手入れのされていない、荒れ果てた庭に降り立ち。

男は即、勝手知ったる場所のように歩き出した。



行き先は───物置きというより倉庫という規模の、外観は簡素な建物。


その鍵が掛かっていない扉を、遠慮無く開き。

中に入った後、持ち上げられた床板の奥に階段が見えても、躊躇(ためら)わなかった。



「こんにちはー。

あ、お仕事中、すみません!」


「えっ!?」



細く急な階段を降りる途中で、ちょうど階下(した)から上がってきた者。

驚愕の声が発せられど、やはり意に介すことなく。



「『エブリデイ・ライク・ヘル放送』の、オルトゥと申します!

お荷物、お持ちしましょうか?」


「い、いや!・・・ちょっ・・・その??」



両手で木箱を抱えた相手が、じりじりと後ろ向きに降り始め。

それに合わせて男が、一段ずつ距離を詰めてゆき。



───最後まで降りきった場所は、けっして狭くはない地下室。


───そこにいた者達も当然、戻ってきた者と同じ反応を示し。



「すみません!

いきなりですけど、お邪魔いたします!」


「・・・え??」



おかしな事を元気良く堂々と宣言する男に、ビシリ、と硬直する場。



「おやおや───これは素晴らしい!

見渡す限りの、宝の山ですね!」


「・・・・・・」


「私、無学ですので、こういった美術品の事は全く分からないのですが!

そこに置いてある絵は、ひょっとして!

マークラデル作・《朝霧の水銀邸》では?

それも、コンテスト出品作ではなく、知り合いに贈った《初作》!

より『彼らしい技法が顕著だ』、と評されているほうの!」


「・・・いっ・・・いや・・・」


「もしも『贋作ではない』とすれば。

ダバス市の美術館から盗まれた後、回収されましたが当の美術館が閉鎖になり。

競売へ掛けられて落札したのが───ええと───」


「・・・・・・」


「そうだ、思い出した!

『旧・評議会(メナール)』の議員だった、ルッカス氏ですよね!?」


「・・・・・・」



どう見てもマトモな職業には思えない、サングラス着用の(やから)が6名。

皆、一様にうつむき加減。


この話題を好ましく受け止めていないのは明白だが、男はそれを完全無視だ。



「氏の財産が押収される直前、『これら』は別の場所へ逃され。

現地検分や調査が完全に終わってから、またここに戻されて。


それを、《清掃会社の社員》である皆様が、偶然に発見した、と。


───そういう事ですか?」


「・・・あ、ああ・・・」


「じゃあ、『お役所』に届けなきゃいけませんね!」


「・・・お、おう・・・」


「ご安心ください、すでにうちのスタッフが連絡しています!

これだけの量ですから、運び出すのは大変でしょうけど!

応援が沢山、来ると思いますよ!

すぐにでも!」



ぱんぱん、と肩を叩かれた一名は、その軽やかな音とは裏腹。

死神に触れられた如く一層項垂れ、もはや溜息も(こぼ)さない。



「───あ、そうだ!

一応仕事中なので、天気予報をお伝えしておきますね!」


「・・・・・・」


「やたらと元気な高気圧が幾つも、迷惑なくらい広がっています!

明日から(おおむ)ね一週間は、『全獄』的に良く晴れるでしょう!

屋内においても、熱中症にお気を付けください!

こまめな水分補給を忘れずにどうぞ!


窓一つ無い部屋から出られないような場合は、特に注意してくださいね?」


「・・・・・・有難うよ・・・」




過大な実行力を備えた男による、ごく当たり前な《まちかど♪天気予報》。



ドタドタと激しい靴音が、地下室の天井付近で響き。


スタジオから届く音声もまた、同じように騒がしいものであった───



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ