623話 表彰される??いやあ、身に余る光栄ですねぇ! 02
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「───朝方は大降りの雨で風が強く、例年を下回る気温でしたが。
正午前からは一転して良く晴れ、6月上旬並の暖かさとなる地域もありました」
夕刻とはいえ、まだ日の傾きを感じせない眩しい日差しの中。
《それ》は飄々と、そして朗らかな笑みで快活に歩いていた。
「見てください、こちらにはもう、初夏の花が。
カタナ菊に、三日月牡丹。
手長ツツジも豪華に咲いて───おっと!」
風情のある石壁に生い茂る、おびただしい数の『白い手』。
その一つがマリンブルーのネクタイを掴もうとしたのを、ひょい、と避け。
代わりに優しく握手を交わす男。
細身の黒いスラックスに、真白のワイシャツ。
背からは大きな翼が生えており。
くるくると巻いた癖毛の髪は、それと同じ濡れ羽色。
───顔は、良い。
───親しみを感じるような、柔らかい表情も備えている。
だが、『そういう事』以外の他の部分が、見えてこない。
何一つ感じさせない。
好意的に評価すれば、ミステリアスな美形で。
最悪、『本当に中身が無い可能性』も十二分にある、残念なイケメン。
───それこそが、オルトゥ・シック・ランハベル。
───何故か仕事を干されない、名うての『告げる大鴉』だ。
「私も《局勤め》ですから、本社ビルに居ることが多いのですが。
こうして市内中心部を少し離れますと、風景の美しさに心を奪われますね!」
絶対にデスクワークなどしていない、出来る筈がない男が、さらりと言う。
「この辺りは避暑地として有名であり、景観の良さはお墨付きでしょう。
7月、8月ともなれば、賑わいを見せる筈ですが。
ただ、今年は寂しくなるかもしれません。
何せ、ここを使っていた方々の殆どが、『いなくなって』しまいましたので!」
とても嬉しそうに、男は目を細めて笑い。
それから。
道沿いに聳える背丈より高い石壁を、軽やかに飛び越えた。
予備動作も、掛け声も無しで。
スタジオからの制止は「大丈夫です」の繰り返しで、適当にあしらいつつ。
「───私、思うんですが。
何かを隠す、一番の方法は。
《そこにあるべき時に無く、無いだろう時にある》。
コレじゃないかなー、と!」




