表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
624/742

622話 表彰される??いやあ、身に余る光栄ですねぇ! 01


【表彰される??いやあ、身に余る光栄ですねぇ!】



「・・・つまり、簡単に(まと)めますと。


菱形マスカットや火薬イモに含まれる、ニトロコラーゲン菌が。

(うろこ)の生成代謝に関与したり、腸内の『悪玉放射能』を取り除いたり。

とにかく良い事が沢山。

デメリットは、多少靴のサイズが大きくなる程度、と。


そういう事ですね?」


”はい。毎日、1キログラムを目安に摂取してもらえば”


「成る程。

良く分かりました。

本日はお忙しい中、大変興味深いお話を有難う御座いました」


”有難う御座いました”


「それでは、失礼いたします」


”はい、失礼します”




手元のラップトップ画面から、リモート接続していた相手の映像が消える。

それを見せないタイミングで、スタジオカメラは『こちら』に戻った筈だ。




「株式会社ネクロサイエンス、健康促進研究室のフォルゴーさんでした」


「時刻は今、16:30を回ったところです」



私の《締め》に、女性アナウンサーのカルミアが自然に《(つな)ぐ》。



───よし、いいぞ。


その表情は、合格だ。

『丁度ぴったりの笑顔』だ。



お昼すぎから夕方までの、情報バラエティー番組。

お固いニュースに、芸能スキャンダル、ファッションやグルメ特集だってやる。

視聴者のコア層は当然、主婦。

即ち、女性がターゲットだ。


それを意識していないと、どうなるか。

『完璧な美貌の女性アナが完璧に振る舞う』というのは、見事に反感を買う。


少し不器用だが元気で、応援してやりたくなるような。

番組司会者から時々突っ込まれ、(かば)ってやりたくなる近所の()のような。


そういう愛嬌や幾許(いくばく)かの不器用さが、女性アナには必須であり。

勿論その事を理解し、実践出来るからこそ、カルミアが抜擢されたのだが。



「ところで───ヤックモルさん」


「はい」



む。

どうした、ここでアドリブか??



「もしかして、緊張していませんか?

大丈夫です?」


「・・・どういう事でしょう?」


「次のコーナー、わたし『は』楽しみなんですけど」


「・・・・・・私『も』、そうですよ?」



こいつ!

新米アナのくせに、司会者をイジってきやがった!


お前、入社一年目だろ!!

この番組にだって、初登場からまだ一ヶ月だぞ!?

いくらなんでも早くないか、そういうの!?



いやいや。

まあ、受けて立つが。


自分は219年間も、当番組の総合司会者(メインキャスター)で。

《やっくん》《ヤクモさん》の愛称で呼ばれる、有名アナだ。

大御所だ。


経験豊富、百戦錬磨ゆえ、この程度では動じやしないが。

全然、平気だが。



(う・・・うぐぐ!)



分かっては、いる。

明らかに『これ』は、お茶の間の皆様を喜ばせるべき場面だろう。

咄嗟に少々不貞腐れた、それでいて澄まし(とぼ)けた顔を作りはしたものの。



───実のところ、内心は穏やかではない。



そりゃそうだ。


次のコーナーは、アレだ。

奥様方に大好評の、《まちかど♪天気予報》だ。


『エブリデイ・ライク・ヘル放送』における、史上最悪の《危険因子》で。

非常に高い視聴率の為、切るに切れない、あの《問題コーナー》だ。



───ああ。


───マズい。



何がマズいか、って。


さっきから、現地入りしている筈のスタッフ達と連絡が取れない。

社用通信も『直接私信(ダイレクト)』も、全く応答がない。


あいつら全員、どうなったんだ?

コズミックラグビーや鉄球ホッケー部出身の、体育会系で固めておいたのに!


これは全員、物理的に《落ちている》か。

もしくは、精神的に《()とされている》のか。


前者の場合は、その分の手当を払った上で休ませる必要があり。

後者だとしたら、新たなスタッフを募集、教育しなければならない。



どちらにせよ、今回の放送は駄目だ。


もはや手遅れだという事だ。




「それでは、いってみましょう!

《まちかど♪天気予報》!


中継の、オルトゥさ〜〜ん!」



嫌になるくらい楽しげな新米アナの呼び掛けに、こめかみがヒクつき。



「───はいッ!

皆さん、どうもー!

《まちかど♪天気予報》担当の、オルトゥです!」



モニターに映ったのは。

というか、その背景は。


まったくもって、見たことのない場所。



ほらこれだ!

やっぱり、こうなったよ!!


本来は駅前広場で、噴水をバックの『定点中継』だぞ!?

お前、今どこに居るんだよ!?


しかも、またもや『自撮り』か!!

私物のカメラを仕事で使うなよっ!!

高級品だな!?

給料全部、つぎ込んでるのか!?

ローンか!?



「・・・いやあ、外は良い天気のようですね」



ニッコリと微笑み、平静を装って返したが。

ぷぷ、と笑う女性アナの声が、隣からハッキリ聴こえた。



───自分の額には確実に、特大の青筋が浮かんでいることだろう。



放送業界へ身を置き、今年で504年目。


ヤックモル・ター・ドヴァーンの体は、小刻みに。

『よくよく見れば分かる程度』に震えていた。



それすら『込み』で期待してくる視聴者と、局の上層部にも。


あのバカガラスに対する怒りと同じものを、感じていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ