620話 助けなくもなし 05
───なんというか。
───やっぱり人生ってヤツは、上手くいきやしないよな・・・。
幼少期に突然出会った綺麗で優しいお姉さんと、再会する。
そんなゲームみたいなイベントに遭遇したとしても。
僕の幸運程度ではピッタリ、それで終わり。
そこから先に都合の良い展開なんかあるわけ無い、って事だ。
───はあ・・・『弟』か・・・『弟』ね。
───惜しかったな。いいところまでいったけど、仕方無いよな。
「・・・一つ質問していいか、マーカス」
「・・・何だよ、ピアーゾ」
急に名前で呼ばれて。
多少の驚きはあったが、こちらも同じように返す。
「姉ちゃんから貰ったプレゼント、気付いてるか?」
「・・・・・・」
ん。
『気付いてるか』、だって?
わざわざそういう表現で聞くってことは、アレだな。
キーホルダーとか保温ボトルとかの、『宝物』のことじゃなくて。
以前バルストが解説してくれた、《魔法》の話だよな?
二重に掛けてある、っていう、強力なアレ。
「・・・知ってる」
「どういう効果なのかも、知ってるんだな?」
念を押された。
「ああ」
「俺も、他の男キョーダイも、同じやつを貰ってる」
「へえ」
「だから、アンタも俺達と同様、『弟』扱い。
そう言ってしまうのはまあ、簡単なんだけども」
「・・・・・・」
はあーー、と長い溜息。
それをついたのは、僕じゃなくてピアーゾのほう。
「姉ちゃんはさ。
マーカスに掛けたアレを、ずっと悔やんでたんだよ」
「・・・え?
悔やんで??」
「魔法ってのはそんな、万能じゃないからさ。
しかも。
対象となるのが人間だと、どうしたって負荷も副作用もある。
《心の一部》を守ろうとしても。
それによって《他の部分》が、余計に痛むんじゃないか、ってさ」
「・・・・・・」
「会って話をしたいけど、会えば更に苦しめてしまうんじゃないか。
自分がやった事は、間違いだったのか。
そういうのを俺、何度も聞いてたから。
マーカスが自分のほうから姉ちゃんと『会いたい』、って願ってくれて。
そこは本当、感謝してんだよ。
ありがとうな」
「・・・いいって。
僕がそうしたいから、そうした。
そこに力を貸してくれる奴もいたから、そうなった。
つまり。
会うべきだった、ってことだよ」
「・・・・・・。
掛けられた魔法は、《痛かった》か?」
「・・・まあな。
ヒルウィーリの予想通りだ。
確かに、僕の《信仰》は守られた。
そして、《それ》によって無数の痛みが生まれて。
傷跡を掻き毟り、のたうち回って苦しみもしたさ」
「・・・・・・」
「それでも。
だからこそ、『間に合った』。
彼女の魔法が、僕の大切な部分を守ってくれたから。
時間を稼いでくれたからこそ。
色んな悪魔や人間と縁を持って、『出口』を探し当てることができた。
困難ではあるけども。
自死する以外の、正しい『出口』をな」
「・・・・・・」
「『弟扱い』は、心底悔しいさ。
だが、これからもヒルウィーリとは会うよ」
「・・・・・・」
「僕は仕事で世界各地を飛び回ってるし、彼女だって忙しいとは思うが。
暇を見て電話したり、休暇をやりくりして遊びに出掛けるよ」
「なんで」
「せめて、『心』だけは近くにいないと。
思い出せないほど離れてしまったら、助けられない。
もしもの時、ほんの少しでも彼女に助力したいから」
「でも、『弟』だぞ?」
「そんなの、別にいいだろ。
それこそ彼女が、誰かを愛して。
その誰かが彼女を、生涯守り抜くんだとしても。
僕が何もしなくていい理由にはならない。
そう思ってる」
「・・・・・・」
「・・・なあ、ピアーゾ」
「ん?」
「お前、よく見たらさ。
少しだけ、ヒルウィーリに似てるよな」
「え??」
「鼻筋とか、眉の辺りかな。
そういう気がする」
「・・・今、俺の顔を見てんのか?
大丈夫なのか??」
「同じ『弟』だと思えば、意外にいける。
何て表現したらいいのか。
諦めのような・・・いや、よく分からないけども」
「・・・マーカス・・・」
向こうからの視線と、合った。
それは。
3秒を超過しても、逸らされることがなかった。
「・・・泣くなよ、マーカス」
「泣いてない」
「めっちゃ泣いてるし」
「いいや、泣いてない。
むしろ、お前が泣いてる。
自分の涙というフィルターを通してるから、僕が泣いているように見える」
「何言ってんだ。頭がオカシイのか?」
「いいや、おかしくない。
むしろ、お前が」
「やかましい!『恋愛ザコ野郎』!」
ああ??
顔が物騒なだけじゃなく、口も悪いな、こいつ!
おまけにそれ、ブーメランだろうがッ!!




