618話 助けなくもなし 03
「オイお前、冗談は顔・・・大概にしろよ??
流石にそれは吐くだろうが、コラ!」
「今、何を言い掛けた?
あ??
・・・じゃなくて。
アンタ、マリーのブラコンに気付いてないのか?」
「存在しないものに、気付くもクソもあるか!
気持ち悪い事を言うなッ!」
「そう思ってるのがアンタだけだから、話が拗れてんだろうがよ!」
「いやいや!
いやいやいや、いや!
無いだろ、それはッ!有り得ないッ!」
「・・・・・・」
「ちょっと手洗いに行って、胃の中身をブチ撒けていいか?」
「戻すな。全部飲み込め」
「・・・・・・」
プロボクサーは、相手のグローブや肩の動きからパンチを読むらしいが。
お互い『ノールック』で開始した王者決定戦、1ラウンド目。
痛烈に被弾したのは、僕のほうだった。
「待てよ、証拠・・・証拠を出せ!!
出してくださいッ!!」
たちまちコーナーまで追い詰められ、情け無くも懇願。
「分かった、いいぜ。
マリーはデートの真っ最中でもな、よくアンタの事を話すんだ。
当然、清々しいくらい悪口ばかりだけど」
「それくらい、いいじゃないですか!(よくはないけど)」
「でもな。ネガティブな話題なのに、彼女の機嫌は悪くなくて」
「そりゃ、楽しいからですよ!(アイツにとっては)」
「スマホの待ち受け画像・・・アンタだぞ?」
「え!!??」
「今日、アンタの顔を知ったから、分かったんだけどさ。
それまではホラー映画か何かの壁紙だと思ってたぜ」
「見間違いですよ、お客さん!
こういう会話自体が、ホラーですよ!」
「やたらアンタの事を構うのも、邪険にするのもさ。
《好意の裏返し》じゃないのか?
あと、その変な口調はやめろ」
「・・・・・・」
「俺、アンタの20倍以上は生きてんだけど。
正直に言って、恋愛経験はほぼゼロだ」
「・・・・・・」
「それでも、知識だけはそれなりにあるんだぜ。
《コンプレックスの反転》とか、そういうのもあるらしいじゃねーの。
ええ?
マリーはブラコンだよ、絶対。
そうでなきゃ、わざわざアンタを呼んで俺と対面させるもんかよ」
「いや、理解出来ないぞ、少しも。
僕にお前を見せたところで、あいつに何のメリットがある??」
「嫉妬してほしいんだろ、きっと」
「やめてくれ!!
僕の負けだ!!
もうやめてくださいッ!!」
「勝ち負けじゃねーし。
いいから、普通に喋れっての!」
「・・・・・・」
もう一度、男を───ピアーゾという悪魔を一瞥。
よし。
やっぱり、直視不可能の『猛毒』だ!
自分の顔なら毎朝、鏡で見慣れてるけどな。
こういう『ちょっと違うEvil Face』には、全く対処出来ない。
打つ手無し。
世界的にも珍しいジャンルの顔だから、そんなに種類は豊富じゃない筈だが。
それでも、《童顔》《美形》《邪悪》。
この3つを入力してAIに生成させたら、数パターンは出てくるんだろう。
もしかして、それをひたすら眺めてりゃ、耐性が付くのか?
そんな馬鹿げた修行は、真っ平御免だけど!
───ピロリロ、ピピン♪ピロリロ、ピピン♪
「・・・・・・」
ショートメッセージだ。
ただいま話題沸騰中な、我が妹様からの。
”ねえ。ケンカとか、してないよね?”
”してない。お前が僕の悪口を言ってた、ってのを聞いてるだけだ”
ざまあみろ、彼氏!
バラしてやったぜ!
”それならいいけど”
いいのかよッ!?
ふざけんなッ!!
”結構上等なステーキ肉が、安くって。3枚買っちゃった”
”そうか”
そりゃもう、よろしゅうございましたねぇ!
お前らが何を食う予定だろうと、一々聞かされたくないっての!!
「もしかして今のは、マリーからか?」
スマホを投げ出すと同時に、ピアーゾが訊ねてくる。
「ああ。ステーキ3枚買ったんだとさ。
けッ!!
どうでもいいにも程がある。
というか、イジメか?
イジメだよな、そうだろ?」
「ほらみろ!3枚じゃねーか!」
「・・・あ?」
「ちゃんとアンタの分も入ってんだって!
やっぱり、帰ってほしくないんだって!」
「まあまあ、落ち着けよ。
違うだろ。
お前が2枚、マリーが1枚の計算でピッタリだ。
これが《正解》だ」
「なんで俺に2枚も押し付けんだよ!?」
「悪魔だったら、それくらいは平らげてみせろ。
マリーの金だし、遠慮しなくていいぞ。
1ドルも支払わず、盛大に飲み食いしてくれ」
「少しはマリーの気持ちを考えろよ!
現実から目を背けんな!」
「じゃあ、お前も僕から目を背けるなよ」
「そっちだって同じだろ!」
「まずは、お前が先に僕を受け入れてからだ。
10秒くらい、瞬きせずに見つめてみろ。
それが出来たら、僕がお前に同じ事をしよう」
「何でそんな上から目線なんだ、アンタは!?」
ロープ際。
弱っているフリ(弱っている)からの、超絶防御。
向こうの打ち終わりに重ねる、起死回生のカウンター。
───愚かなり、悪魔!
お前がどんなに長く生きていようが、これは《口喧嘩》だ。
種族の差ではなく、センスの有無がモノを言うバトルなのさ。
興奮すればするほど、防御が薄くなり。
相手の話を本気で聞けば聞いただけ、攻撃の機会を逸してしまう。
───大丈夫だ、勝てるぞ!
───僕は『ヌカ』で、お前は『クギ』だ!
”さっさと帰れ”と言ったマリーが、『僕の分の夕食を買う』?
馬鹿馬鹿しい!
そんなツンデレが、現実世界に在るもんか!
ゲームでは《ツン9のデレ1》だって攻略してきた僕だけどな。
マリーは、アイツは、1すらも無いよ。
完全なゼロなんだよ。
よくあんなのと付き合えるな、こいつ。
男として心底、感心するよ。
人類の平穏の為、キッチリ犠牲になってくれよな!
「心配無用だぞ、ピアーゾ君。
私には、微塵も敵意が無い。
けっして、君達のラヴストーリーにおける《障害》にはならぬよ」
「おい、喋り方!!」
「邪魔者は、静かに退散するだけさ。
ここを自宅だと思って、肩の力を抜くといい。
さあ、今夜は楽しんでくれたまえよ。
ステーキも我が妹も、よく味わってな。
フハハハハハ!」
「やめろよ!!
変に生々しくて、腹が立つ!!
しかも、どういうキャラ設定か分からねー!!」
「うっかり迷い込んでしまったレベル1の勇者を暖かく迎え入れる大魔王だが?」
「・・・ああ、そうかよ。
アンタがあの、《ブラコン》の根源たる大魔王様ですか」
「いやいや!何を言っておるのかね、君は!
ハハハハハ!・・・ハハ・・・ごふうッ!!」
「クリティカルで入ってんじゃねーか!」
違う、違うって!
ぜんっぜん効いてないから!!
このくらい、スズメバチに刺された程度だよ!!
バーカ、バーカ!!
Evil Face!!




