616話 助けなくもなし 01
【助けなくもなし】
苦難に直面した時。
最後の最後で身を救うのは、『愛』と『勇気』。
───なんていうのは、嘘っぱちだ。
不肖マーカス・ウィルトン、25歳。
あと少しで26歳。
世の中に溢れている大半の事が嫌いで、唾を吐きたくなる僕だ。
若造だと言われれば、まあその通りではあるけども。
『愛』はともかく、『勇気』はほぼ無力だと知っている。
我が身をもって味わい、どれほどのモノなのかを、良く良く理解している。
『勇気』ってやつは基本的に、『努力』とか『根性』と同じ分野で。
それが素晴らしい結果を生み出すのは、ジャパニーズのアニメやマンガだけ。
そういう作品が感動的なのも、”現実ではありえないから”こそで。
───『勇気』の力なんて全然、大した事がない。
一つ、例を挙げよう。
僕は世にも奇妙な、超絶美形の童顔且つ、《凶相》だが。
たまにいるんだよな。
好奇心以外で敢えて、視線を合わせてくる奴。
話し掛けてくる奴がさ。
”人間は、見掛けじゃないんだ”
”心と心で、分かり合おう”
ははは。
まあ、大体3秒だよ。
3秒で目が逸らされて、語尾が急速に小さくなって。
その相手は、さっさと何処かへ消え失せるワケだ。
何なんだよ。
大概にしろっての。
カッコイイ《お題目》に酔った挙げ句、自爆しやがって。
そのついでに僕のガラスハートまで傷付けんなよ、カスが。
もれなく豚の餌にでも志願して、肛門からひり出されて大地へ還れ!
いや、戻ってくんな!
Fuxk!
───そして。
「・・・マーカス・ウィルトン、です」
「・・・・・・ピアーゾ」
我が故郷、《忌まわしき実家》のリビングで。
僕と、向かいに座る男。
その両方が表情を強張らせ、視線を逸し合ったのも。
まさに『勇気』ってのが、無力である所以だろう。
ハッキリ申し上げて、僕はそいつの顔を直視する勇気が無かった。
あちらもあちらで、”無理だ、勘弁して”と泣き出しそうな感じだった。
「ちょっと、兄貴!何なのよ、その失礼な態度は!?」
「・・・・・・」
気まずい沈黙が広がるや否や、猛然と噛み付いてくる妹よ。
相変わらず、お前の頭の中では僕だけが『悪者』に自動変換されるんだな?
そいつにも、同じ事を言えよ!
同罪だろうが!
ちらり、と恐る恐るで正面を見れば。
運悪く同じ行動を起こした相手のそれに、正面衝突しかける視線。
───慌てて、顔ごと方向をずらした。
昔っから性根の腐っている、ズルくて可愛げの無い妹から紹介された男。
付き合って2年ほど経つという、『彼氏様』は。
この僕に匹敵するレベルの、Evil Face。
おまけに、悪魔だった。




