615話 Bloodline 07
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「・・・ええと、それで」
パルセムを奪い返し、どさくさに紛れて抱き締めて。
『我等が本家頭首』、ファリア様に尋ねる。
「ここから先、というか・・・シルミスト家との戦闘は?」
「停戦も休戦も無いよ。続行する」
間髪入れずパルセムが、さも当然とばかりに言った。
うひい!
どうしちゃったの。
ほんと、かっこいいんだけど、この子!
「ええ、その通りよ。
戦争において、如何なる容赦も温情も必要無い。
シルミストは徹底的に殺して、磨り潰して。
必ずこの世から消滅させましょう」
うんうん。
そりゃそうだよね、本家頭首様。
さらりと言ってるけど、表現がおっかない!
「心配せずとも、《増援》はあるわ。
我等の盟友である、ハルバイス家から。
そして勿論、ズィーエルハイト本家と、分家衆からもね」
「あーー。
あの爺さん家は、同盟なんだ?
例外中の例外ってコト?
てゆーか、あそこはお隣だから、派兵は簡単だろうけど。
本家とかズィーエルハイトの『本領』側からは、どうするの?
まさか、西へ向かって全部の領地線、破って来るつもり?」
「いいえ。
もっと確実に、短時間で到着可能よ。
国防軍の、戦闘輸送ヘリで行くから」
「・・・えっ!?」
「そういう道筋は、すでに整っているのよ」
ほんの少し誇らしげに胸を張る、ファリア頭首。
その隣でこめかみ辺りを押さえる、分家衆の筆頭。
───マジだ、これ。
───領地線無視で、空から強襲する気だ。
「ちょっと、ファリア!
それは《対ガニア》の最終手段じゃん!
おいそれと持ち出すのは、やめろってば!」
「使える方法があるなら、出し惜しみせず使うわ。
それに《最終手段》なんて、言葉の響きは良いけれど。
素手で殴ろうと、踏もうと、最後の一撃であれば《最終手段》でしょう」
「また君は、そーゆー事を言う!!」
分家衆・筆頭が、ガシガシと頭髪を掻き毟って喚き。
それから、苦り切った顔をこちらへ向けた。
「・・・ま、ウチはこんな感じだから、ヨロシク頼むよ」
「・・・ストッパー役が足りない時は、声を掛けてね」
「・・・うん。常に足りてないんだけども」
だろうなー。
そんなだからこその、ファリア様だよねー。
「あっ、そうだ!私、一つ聞きたい事があって」
「何さ?」
「さっき《本家の血》を飲んだから、こう。
色々な情報が、ぶわあっ、と頭に入ってきて。
でもその中に、よく分かんないのが混じっててね」
「ん??」
「・・・・・・ドラゴンってさ、『あっちのほう』凄いの?」
瞬間、分家衆・筆頭の視線が逸らされて。
マイネスタン分家以外のズィーエルハイトが、大爆笑した。
「なっ、何を言い出すんだ、急に!?」
黒スーツの悪魔が、慌てて口を挟んできたけど。
それはまあ、華麗にスルーしておき。
「いわゆる、『絶倫』の『女たらし』なの?」
「おいっ!やめろ!
やめてくれっ!!」
「──────そうね。
『絶倫』で、『女たらし』ね」
「ファリアっ!?」
「新参の立場でこういうのに突っ込むのも、アレだけどさ。
《血》が色々と教えてくれるもんだから、どうしても気になっちゃって」
「───そう」
「もしかして、彼と結婚する予定とか?」
「───そうね」
「それ、大丈夫なの?
こういうタイプ、悪気の欠片も無いから、絶対面倒よ?」
「いいえ。構わないわ、リグレット」
ファリア・ズィーエルハイトが言った。
東洋の菩薩像に似た、良くも悪くも全てを受け止めるような。
悟りの境地へ至った表情で。
「多分、私は──────子供を十四人、産むのだから」
「!!!!!!」
凄まじい、どよめき。
それから。
力一杯の拍手喝采が巻き起こる。
───ふと見れば、件のドラゴンは真っ赤になって、何か言いかけて。
───結局何も言えないまま、下を向いてしまった。
うーーん、まあね。
子孫が増えるのは、喜ばしい事だし。
多すぎるとは思うけれども、いないよりはずっといいか。
そう思って、私もウチの連中と一緒に拍手したけれど。
いや、やっぱり十四人という数は、尋常じゃないよね?
目標として十四人を目指すのか。
それとも、十四人までならオーケーなのか。
どっちにしても、平常運転の振りしてブッ飛んじゃってるよ、これ。
私とはまた別のジャンルの、『変質者』かなぁ?
もしかして。
ズィーエルハイトって。
そういうのばっかり、集まってるとか??
───意外に、悪くないかも!




