614話 Bloodline 06
左袖を引いたのは、気付かない内に移動していたリーシェン。
「・・・すぽんさーとして、要求する。
『見せ場』のキャスティングは、とてもだいじ」
「え?」
そして、右袖は───パルセム。
「形式だけじゃなくて、頭首はボクだよ、リグレット。
一族の最終決定権は、ボクにある筈でしょ?」
「・・・・・・」
「こんな大切な事は、ぜひ頭首にやらせてほしいな」
「・・・パルセム・・・」
思わず抱き締めたくなる、ふわふわの笑顔。
それが瞬時に、きりり、と引き締められて。
「───我々は。
現時点で保有する『樽』を、全て破棄する。
これ以降は、《奪ったものではない血》のみを糧とし。
【ズィーエルハイト領・マイネスタン分家】を名乗ることとする」
「・・・・・・」
どうしたって幼さはあるけど。
よく通る、力強い声での宣言だった。
名乗らせてほしい、という『お願い』ではなく。
名乗るぞ、と言い切った。
一々、皆の意見を確認するまでもなく。
それを全部分かった上で、自分の裁量をもって決定した。
ああ。
私の、可愛いパルセムが。
こんなにかっこいい、本物の頭首として振る舞うなんて!
ヤバい!
これもう駄目、我慢出来ない!
今すぐ『ちゅっちゅ』したいッ!!
「───宜しい。
ズィーエルハイト頭首として、我等一族の新たな《誕生者》を歓迎する」
向こうも、パルセムと同じ。
郎党の誰とも話さずに、はっきりと結論を口にしてきた。
「領地が離れていようと、我等は共にズィーエルハイト。
弱者の為に強者を屠らんとする、《暴力装置》。
ハンガリーの吸血鬼達を震え上がらせる、【気狂いのズィーエルハイト】よ」
「頭首、ファリア。
まさに。
それをする者が、する者だけが、【ズィーエルハイト】だ」
私は、パルセムを眷属化していない。
だから、あの子は吸血鬼じゃなく、獣狼族のままだけどね。
そういうのはもう、関係無くなった。
種族自体が、どうでもいい事だ。
パルセムが返答したように。
ごく単純に、行動する者こそが【ズィーエルハイト】なのだ。
───ファリア頭首とパルセムが、握手を交わして。
───そのまま、流れるように抱擁した。
いや、ちょっと!!
私の坊やに、何やってくれてんの!?
何が『見せ場』よ!!
あああああ!!
長い!!
ハグが長すぎだってば!!
ギリギリか!?
これ、ギリギリでセーフか!?
いやらしい気持ちとか、微塵も入ってないわよね??
『親愛の情』だけだよね??
ちっくしょう!
セーフか!!
だったら、セーフがアウトに変わらないうちに!
然るべき手を打たなきゃ!
───動け、私ッ!!
───ジーク・ズィーエルッ!!
横合いから思いっきり、私がファリアに抱擁し!!
物理的に、正式に、完璧に止めさせればいいんだッ!!




