613話 Bloodline 05
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ずっと不思議に思っていたのだ。
どうして『もう一つの自分』は、名を呼んだ者を殺せるのか。
そんな凄まじく破格な力が何故、備わっているのか。
人間は、『伝来の妖族』を生み出した。
想像、妄想を明確にすることで、少しでも納得しようとした。
つまりは、望まれたのだ。
”持っていて当然”という能力を、彼等は愚直に、当たり前の如く与えた。
”あんなに酷いことを、扱いをしたのだから、恨まれているだろう”、と。
”その恨みを牙として向けられた時、自分達が死ぬのも当たり前だろう”、と。
それくらいは、彼等も分かっていた。
延々と繰り返してきた差別と侮蔑の行為に、罪悪感だって持っていたのだ。
恐怖の中で息を潜め、身を寄せ合い。
《贖罪》になどならない、と知っていて尚。
己を恨む者に、理不尽とも言える力を与えたのだ。
───その事を今、私は確信したけれど。
───『もう一つの自分』からは、何の返答も無かった。
近親婚で成したもの以外に、攫ってでも子供が欲しかった『彼女』と。
”変質者”と罵られようが、とにかく可愛い少年を愛しまくりたかった『私』。
一般的には受け入れられない《共通目的》で繋がったせいだろうか。
その他の殆どである《異なる部分》にも、大体の理解は及ぶ。
どんな心情かくらいは、分かるのだ。
───”痛みも恨みも憎しみも、きっちりと倍にして返すべきよ!”。
何百回、何千回と私が掛けてきた、望まれるだろう『至極真っ当な言葉』。
それが今日、諦めのような白一色で塗り潰されてしまった。
ごめんね、と思う。
裏切りたくなかった。
最後まで味方でいたかった、と思う。
それでも。
おそらく最後の個体となった『彼女』の、とっくに枯れ果てた心の替わりに。
私がしてあげられる事はもう、一つしかなくて。
「・・・・・・人間って、馬鹿よね」
「───そうね。つくづくと」
「どうして、こんな・・・・・・悲しいのかしらね」
「───ええ。本当に」
震える体を堪え。
情け無いくらい、ボロボロと泣く私へ。
ファリア・ズィーエルハイトは、淡々と。
けれど、慈しみを感じさせる表情と声で応えた。
朱の瞳の奥底に燃える、不滅の炎。
熱。
嘆くより、慟哭するより、前進することを最優先とする覚悟があった。
そんなズィーエルハイトを、信じたい。
その生き様が正しいことを証明する、『確実なもの』を得たい。
そして、何よりも。
”こちら側へ来てほしい”、と。
味わった《血》が、体の内側から繰り返し呼んでいた。
「・・・ファリア・ズィーエルハイト。
私は、マイネスタン家を代表して、」
自然に、何の策謀も打算も無く、そこまでを口にした時。
私の袖が掴まれ、ぐい、と引かれた。
両側から、同時にだ。




