606話 Hyper Link 05
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口に含んだ氷を、ガリガリと噛み砕き。
これ以上にない渋面で男が、ぽつり。
「───真面目に聞いた俺が、馬鹿だったよ」
「・・・・・・」
「完全な『与太話』だ。
まったくもって、時間の無駄ってモンだ」
「そこまで、ゆわなくても」
「いいや、言うさ。
まあ、阿呆が持って来るネタに少しでも期待した、こっちが悪い。
お前にゃ少しも罪は無ぇよ、リーシェン」
「なら、あんしん」
「嫌味くらい理解してくれ」
「・・・・・・」
「───繰り返すが、仕事の邪魔はやめろ。
俺は悪魔として大した強さは無いし、カリスマとも無縁だけどな。
それでも、この一派が《大手》としてやっていけるよう、支えてきた。
今も、支え続けてるわけだ。
自慢じゃなく事実として、俺がちょっとでもヘタを打ちゃ終わりだぞ?
残りの連中に、代役が可能か?
その時だけでも、お前が本気を出すか?
───どちらも答えは、『No』だよな?」
「いたみをともなう真実は、おことわり」
「受け止めろよ、真正面から。
そんで、自分の始末は自分で付けろ」
「・・・・・・」
「正式に契約したか、しないかじゃあない。
召喚に応じたなら、お前が最後まで面倒見ろ。
こっちに回してくるな」
「・・・でも」
「『でも』じゃねぇ、甘えるな。
前回の、俺をロリコンと仮定しやがった時に言った筈だぞ?
《変態》と《坊や》と、その周囲は『詰み』だ。
舞台から消えるのが確定。
どうにもならん」
「・・・ふうん・・・」
「何だ、その顔は」
変に物分かりの良さげな。
それでいて探りを入れ、試すような少女の視線。
露骨な挑発と見抜きつつも、男が喰い付く。
「───『ウチの一派の外』における俺の立場は、《情報屋》だ」
「うん」
「そして。
《情報屋》ってやつは、情報を売る以外に何もしない。
しちゃいけない。
俺はな。
《黒輪商家》で財を築こうとか、思っちゃいない。
世界を裏から牛耳るなんて野望も、爪の先ほどにもない」
「うん」
「未来のシナリオが予想出来ようが、それを変えるつもりは無いんだ。
大まかに同じ方向ならば、ともかく。
真反対に進むような危険な脚本を、自分で書くリスクは負わない」
「うん」
「そもそも俺がここに居るのは、一派の得になる仕事をする為だ。
お前が昨晩、坊やと交わした約束なんざ、掠りもしない。
ウチに一欠片も利益をもたらさない。
───よって、俺は知らん。
───わざわざ動く『道理』が無い」
「うん」
テンポ良く打たれる相槌に、はっきりと表情を歪ませて。
男の指が、コツコツと白いテーブルを叩いた。
それを。
少女が憎たらしくも可愛らしい笑顔で、静かに見つめていた。




