603話 Hyper Link 02
「───《惚れ薬》を、だれがつかうの?」
「ボクです」
「───だれに、惚れたいの?」
「リグレット・マイネスタンに、です」
「───いや、それはおかしい」
悪魔は咄嗟に、両の手の平を前方に突き出す。
相手が獣狼族だけに、『待て』のポーズだ。
そして、ゆっくりと首を横に振る。
「すこし落ち着こう、おおかみの子。
おまえは今、『ごらんしん』してる」
「そうでしょうか?」
「そう。ものすごく」
「・・・・・・」
「うり飛ばされた子にゆうのは、気がひけるけど。
ずばり、思慮がたらない」
「思慮?」
「リグレットが、おまえに《惚れ薬》を飲ませなかった理由。
それをまず、考えるべき」
「多分だけど、ボクに『薬を飲まずに好きになってほしいから』?」
「わかってるなら、なんで薬を欲しがるの」
「・・・薬を飲まずに、好きにはなれないからです」
「───それきいたらリグレット、自殺する」
「彼女には言わないでくださいね、絶対」
「あたりまえ。
そんな嫌なやくめ、頼まれたっておことわり」
しゅばっ!、と胸の前で両腕をクロスさせる少女。
だが、コミカルなアクションとは真逆に、その表情は冷たい。
若干の呆れを含みながらも、無感動で醒めた視線が相手を刺している。
「おまえが今、すごい事を話したから。
そのぶん、わたしも『ひみつ』をゆう」
「??」
「と、思わせて。
ほんとうは、おまえを諦めさせるための、しんじつ」
「・・・・・・」
「わたしはリグレットと、そんなに友達じゃない。
むこうがどう思おうと、じゆうだけど」
「え」
「だから、あいつの名前をだしても。
わたしはそんな、とくべつ扱いしない」
「でも。
ボクは、《召喚者》ですよね?
召喚したから、悪魔さんはボクの願いを叶えてくれるんですよね??」
「あまい。
バラナシで食べたグラブジャムンみたく、あますぎ」
「???」
「わたしにも、契約をむすばないとゆう、せんたくしがある。
罰則料さえガマンすれば、それをえらぶことは可能」
「そっ、そんな!」
「それに、わたしはあいつに薬を『売った』から。
あいつの《しょゆうぶつ》にも、同じようにする。
おまえは、『惚れ薬』の対価を、しはらえる?
げんきん5万ドル、いっかつで」
「・・・あ・・・ぅ・・・」
暖炉に炎も揺れぬ、真夜中の広間。
冷えた板張りの床に獣狼族の少年は、へたり込んだ。




