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599話 Bottom of the Bottle 02



石扉の向こうからは尚も、苦悶の調べが尾を引いている。


勿論、それを聞いてはいるが、ユーニスは何も感じない。

思うところがない。



(・・・馬鹿が、好きなように馬鹿を続けているだけ)



『才能』とは、皆が見惚れるようなものばかりではない。

泥土(どろつち)に埋もれて隠れ、少しも輝かぬ種類(たぐい)もある。


”何の才能も無いが、努力で成功した”


それはほぼ、《嘘》だ。


努力などという当たり前の事は、多かれ少なかれ、大抵の者がする。

そして。

その効能は、1回か2回か『抽選回数』を上乗せする、その程度。


しかし、才能となれば意味合いがまったく違う。

『当選確率』を自動的に、大幅に上昇させるのだ。


即ち。

才能が皆無ならば、《幸運》なくして努力が実ることはない。

けっして無い。


そして。


アドリー・ディエ・ブランフォール。

この愚かしく憎らしい馬鹿に、才能などというものは、爪の先も無かった。


無いから、こうやって(もだ)えている。

泣き叫んでいる。



(あはは!ほんっとうに、馬鹿な奴!)



編み針を動かしながら、ユーニスは薄く笑う。



お前、何百回目の《出産》だ?

毎度毎度、産んでは泣き。

喰らっては泣いて。


そこまでやってさえ、塵芥(ちりあくた)みたいな魔力しか得られない。

生まれながらのクズで、死ぬまでそのままの汚物でしかなくて。


お前は絶対に、幸せになどなれない。

ここから抜け出せやしない。


《最悪》という名の瓶の、一番下に溜まり(よど)んだ存在で。


しかも。

この私と一緒に、閉じ込められている。


内側からも、外からも、けっして助けられない。


慕っている兄から優しくされようと、余計に傷口が痛むだけ。

ましてや《墓守の竜》など、お前が苦しむ様を喜んで眺めるだろう。



(・・・・・・)



熱い吐息を、ゆっくりと吐き切って。

《逃し屋》は、ようやく閉じていた瞼を()けた。



くくく。


とてもいい声で、()いている。

こんな声を聞かされたら、(たま)らず(たぎ)ってしまうでしょうに。



(淫売の、ケダモノめ)



この肉体はもうじき、『男性期間』へと入る。

現在(いま)は女性形態から少しずつ変質している途中だ。


そういえば昔、この馬鹿から頼まれたことがあったな。


”抱いてくれ”、と。


自分との子を()して喰らえば、強い力を得られると考えたのだろうが。

お前の得になることは、絶対にしてやるものか。

額を床につけて懇願しようと、そんな思惑には乗らない。


どうせなら。

抱くのではなく、犯すほうが愉快だ。

最悪のタイミングで、いつかそうしてやる。


その顔が倍に膨れるほど殴り。

お前が解除出来ないような魔法で、永遠に状態を固定してやる。



(そうしてやったら、今よりいい声で()くだろうか?)

(それでも諦めずに、また産み続け、喰らい続けるだろうか?)


(・・・・・・)




編み針と糸玉が、膝の上から落ちた。



細くしなやかな指が、股間に屹立(きつりつ)したものを強く握り締め。

揺れた。



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