597話 いつかは、いつかだ 02
・
・
・
・
・
・
・
昼休憩を終え、キースが午後の営業に出掛けた後。
またもや俺は、『ニヤけ』と『落ち込み』を繰り返している。
───その原因は、昨晩《財宝部屋》に入れた品物。
───それも、《特別室行き》となった、アレのせいだ。
ヤバい。
滅法ヤバくて、嬉しい。
そしてやっぱり、ヤバい。
独立国家の元首様から譲渡されたアレは、凄過ぎて顎が外れる。
《第一種聖典》!
本物の《第一種聖典》だぞ!?
いやいや!
ぽん、と簡単に渡されていいモンじゃないだろ!
天界の『宝』だろ、これ!
『神器』とまではいかないが、超級のアーティファクトだ。
量産可能な武器とは、次元が違う。
これ一つで戦局が変わる規模の、『劇物』だ。
天界でもそうだったんだろうが、こんなのは《個》で所有するべきではない。
させてはならない。
だから俺は、引き取ったその足ですぐさま、我等が陛下に献上しようと。
つまり。
面倒を抱えることから、逃げ出そうとしたのだが。
”───うむ。事情は分かったぞ、アルヴァレスト”
”ならばそれは、お前が持っておくと良い”
”本日、確かにお前は、余と謁見した”
”そして、それを余が預かった───と思わせておこう”
”『有るべき場所に無いものを、持つべき者さえ手にしない』”
”《策》とは、そういうものだろう”
”お前に任せるなら、余も安心して構えていられるな”
そこまでの御言葉を賜ったらもう、嫌だとは言えない。
Yesの一択しかない。
そりゃあ、こんなべらぼうな価値のアイテムだから、ワクワクするさ。
ドラゴン的には。
天界の奴等だって、国家元首から俺、俺から陛下に渡ったと考える。
そして、渋々ではあるが奪還を諦める筈。
いやはや。
おっそろしい事になりやがった。
想像すらしてなかったよ。
こんな、出品しようにもオークション側から断られそうな《逸品》は。
ニヤけて、落ち込んで。
こっそりファリアに渡してしまおう、とか。
マギルに頼んで、ヴァチカンにいる孫とやらに、なんてのも考えたけどな。
それ、バレた時には所有者が天使の大襲撃を受けるわけで。
駄目だよなぁ、やっぱり。
うむ。
分かってはいるのさ、俺も。
そういう思考自体が、言い訳だとは。
真剣に検討したように見せかけ、自身の逃げ道を塞ぎ。
”やれやれ、仕方無いな”、という結論に落とし込みたいだけ。
結局のところ。
俺は、この『お宝』を持っていたいのだ。
所有していると疑われないなら、尚更好都合なのだ。
自分だけの《財宝部屋》に入れて。
時折思い出しては手に取り、じっくりと眺めて浸りたい。
それだけの理由で保管するのか、って?
いつかは、使う日が来るかもしれないだろ?
その時の為さ。
持ってる事で困る日だって、訪れるかもしれないが。
その時はその時さ。
何とかなるだろ!
───俺が言うのもなんだが。
───キースよ、マジでヤバいぞ。
ドラゴンの『所有欲』、半端ない。
この不安感。
危機感。
それすらも『お宝』の付加価値だと信じて止まない俺は。
ドラゴンとして、少しも間違ってはいない。
そういう事にしておこう!




