595話 スター誕生 06
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風の中に、純白が舞い踊っている。
冷たく乾いた、大粒の結晶。
吹雪。
それが大地を、草木を白く染め、覆い隠さんと尚も降り積もる。
「は───はは、は───」
うつ伏せに倒れた天使が、苦鳴混じりの哄笑を上げた。
「何だ、これは───ええ?
何がどうして───どうなって、こんな馬鹿げた事に」
「・・・・・・」
「おかしいだろう───お前は一体、何なんだよ?」
「・・・見ての通りだが」
細面の、独特な。
『ひょうたん顔』の男が、倒れた者を見下ろして言う。
「我が名は、フォンダイト・グロウ・フェネリ。
天の理を超え、天使にあって天使に非ず。
少なくとも、《第一種聖典》から『神敵』と認定される程には」
「──────」
「故に。
私は私であり。
末席なれど、《オーストラリア流・エルフ杖術》に身を置く者也」
「──────」
「甚だ精進が足りんが、な」
血濡れた《杖》を構え、その先端を向けたままの姿。
頭髪や両肩に、着雪は無い。
目に見えぬ『何か』で包まれた如く、降りしきる雪が男を避けている。
強風すらも、その裾を揺らすことが無かった。
「どうして、お前が───精霊術を使える?
あの獣じみた咆哮は、一体」
「精霊という存在は、遍く世界に満ち溢れている。
『妙なる歌』は彼等との約定であり、道標。
豊かな自然と友愛こそが、『真の力』である」
「ぐっ、う───ふざけるなよ。
そんな、エルフみたいな───蛮族共の戯言を」
「何者に否定されようと、真理は変わらん。
そして、決闘は私の勝ちだ」
「──────」
言葉にならない、乱れた呼吸音。
関節とは異なる場所で折れ曲がった腕が、ずず、と力無く地を滑り。
雪は朱に染められて、流れ広がる。
「───とどめを、さしてくれ」
「断る」
「フォンダイト」
「己が生き様を、他者に委ねるな。
歩みを止めるも、諦めるも、貴様自身の決定だ。
酒の席で自慢し合っただけの相手に、末期を頼む所以は無かろう」
「一々馬鹿真面目で、腹が立つ奴め。
僕は、お前のそういうところが、昔から嫌いだった」
「そうか。初めて知ったぞ」
「───────」
沈黙。
嗚咽を噛み殺すように、震える溜め息が長く吐き出された。
「もう一度言うけど、墓は要らない。
『盗品』は、お前にくれてやるよ。
───じゃあ、な」
数瞬の間を置いて。
閃光と、爆発音。
胸部から背部まで貫通した、大きな焦げ穴。
指先を微かに痙攣させた後、天使はもう動かなくなった。
「・・・・・・」
しばらくの間、それを無表情で眺めて。
『ひょうたん顔』の男は、雪の中から蒼く発光する《香炉》を拾い上げる。
「安らかに眠れ、ローベルシス。
勝者として、戦利品は有り難く頂くとしよう。
されど、《これ》をどう扱うか。
有るべき場所に無いものを、持つべき者が手にするか。
それとも、『親愛なる森の守り手』に委ねるべきか。
非常に悩むところであるが・・・まずは」
───男は眼前に杖を突き立て、指を揃えた両の手を合わせる。
───そして、厳かな表情で呟いた。
「助力してくれた精霊達よ、心から感謝する。
これからも我等が、共に在らんことを」
遠くから、エルフ達が走ってくる姿を確認して。
男が上げた片手は、大きな歓声を呼び起こした。




