593話 スター誕生 04
「つい最近まで、わたしは───あまり付き合いの良い方ではなくて。
エルフという集団の中、浮いていると自分でも感じていました」
しがみついた腕を離さず、イエリテ殿が言う。
「伴侶を得て、子供を産み、家庭を築く。
そういった皆の『当たり前』も、どこか遠くの世界のようにしか思えず。
惰性のまま生きて、いつか終わりの日が来るなら、それでもいいか、と。
抗わずに受け入れればいいだけだと。
希望や願いを持たないまま、全部諦めて暮らしていたんです」
「ふむ」
「けれど───今は違います。
フォンダイトさんが元首として訪れてから、変わりました。
《生きている》のではなく、《生きていたい》。
《一人では寂しい》という感情さえ、芽生えたんです。
子供も、たくさん欲しいです」
「うむうむ。
それは良いことだな、イエリテ殿。
前向きで建設的な思考は、私としても非常に好ましい」
「『好ましい』ですか?」
「まったく、その通り。
エルフ族の未来をどうするか、そこに自分を含めて考える事は重要だ。
真の解決へ至る為には、他人事のような俯瞰であってはならぬ。
私自身も、貴女と同じなのだ。
《自分がエルフであるなら》。
そもそもの基準をそこに置くことで、高い垣根を越える。
種族や慣習に捕らわれず、相互理解を深めてゆく。
まさに今、それをイエリテ殿と行っているところであるな」
「───では、もっと深く知り、分かり合いましょう」
「うむ」
「わたし達が、《エルフと天使の新しい関係》を創りましょう」
「ああ。その意気や良し」
「ですから、その」
「うむ?」
「今夜───わたしの、部屋に───」
「ん?」
何故か急に小さくなった言葉を聞き返そうとした時。
ぱっ、と彼女の体が離れて。
「??」
「おーーい!!
イエリテさーーん!!フォンダイトさーーん!!」
遠方から名を呼ぶ声。
振り返れば、こちらへ向けて一直線に走ってくる、残像のような影。
幻かと疑う暇も無く、それは風をまいて飛び込んで来て。
私達の目前で急停止した。
「やっと、見つけた───ここだったか───!」
上半身を折り曲げ、荒い息遣いで膝に手をつく若いエルフ男性。
凄いな。
耳にピアスというのも、エルフとしては奇抜だが。
サンダル履きで、あんな速度が出せるものなのか。
精霊の力を借りているにせよ、凄まじい身体能力だぞ。
「どうしたんです、カトルーノ?」
「マズい事になった───緊急事態だ!」
イエリテ殿の問いに、呼吸が整わぬままの男が汗を滴らせて叫ぶ。
「森の入り口に、天使が来てる!」
「え!?」
「そんでもって、そいつが!
フォンダイトさんを呼んでるんだよ!」
「!!」
むむ!?
私を!?




