592話 スター誕生 03
「ああ、いや・・・その、だな」
不可視の時間制限に追い立てられ、考えが纏まらないまま口を開く。
ええい。
どうやったって、『未経験者』には限界がある。
こうなったらいっそ、取り繕うよりも《正直さ》だ!
”嘘をつかない”という事実でもって、誠実さを示す!
それしかないだろう!
「・・・私は。
イエリテ殿に対して、思うところがある」
「──────」
「我々《独立国家・『地上の星』》は現在、中和剤による除染が主たる活動だ。
世界各地を回り、着々とその作業を進めているのだが。
今回のように、オーストラリアへ赴くのは、特別に胸が高鳴る。
それは。
貴女と会えるのを、楽しみにしているからだ」
「!!」
ちらり、と表情を確認。
よし。
怒っていない。
怒っては、いない。
まだ大丈夫だ。
「私には元首という重責があるからして、全ての思考を表に現すことをしない。
苦悩や逡巡を悟られれば、内外に悪影響を及ぼす。
けっして他者に、本当の思惑を読まれてはならぬ。
それを肝に命じ。
私は常々、《得体の知れない男》というイメージに徹しているのだが。
そうしながらも、周囲に居る者の仕草や、ちょっとした顔色の変化。
そういったものは、仔細に観察し続けている。
イエリテ殿に関しては、特に」
「わたし、ですか?」
「そうだ。
貴女の事は、可能な限りに見て、考えている。
そうしなければ、不安になってしまうのだ、私は」
「───フォンダイトさん」
再度、確認。
まだ怒っていない。
左腕は極められたままだが、折ろうという意志は感じられない。
これ即ち。
私の誠意と真意が、正しく伝わっている、という事。
つまり、『この路線』で間違っていない。
これが正解。
ああ、分かったぞ。
然らば、あとは全力で前に進むのみ!
「イエリテ殿が目を伏せ、悲しめば。
それは、私が何かを誤ったという事。
その顔が綻び、輝くならば。
私の選択が正しかったという事。
貴女の一挙一動が、私を表す。
貴女の悲しみと喜びが、私に同じものをもたらすのだ」
「──────」
「今、こうして貴女といる事が嬉しい。
遠い遠い未来にも、私の隣にいていただけるなら。
それを想像すれば、何と言うか。
この締りの無い顔が。
余計にみっともなくなりそうで、恐ろしいな」
「───!!」
ぐおっ。
左腕の骨が、みしり、と軋み、危うく仰け反りかけた。
しまった!
怒ったか?
怒っているのか!?
いや。
本当に怒っているなら、《折る》。
必ずや、即座に《折る》筈。
エルフとは、そういう生き物だ。
まったくもって容赦無いのだ。
そのエルフが、腕を折らない。
ギリギリで、折らないのであれば。
つまり、私は。
非常に厳しいライン際ではあるものの、合格した。
滑り込みの『セーフ』。
そういう事か?
───悟られぬよう、素早く大臣達の様子をチェックする。
───皆、口をあんぐり開けて、私の『モテ男ムーブ』に驚愕している様子。
よし、いいぞ。
これでこそ、エリート中のエリート。
突如として襲い掛かった難局を、華麗に乗り越えてみせたぞ。
ははははは!!
我は無敵の国家元首、フォンダイト也!!




