591話 スター誕生 02
・
・
・
・
・
・
・
「第二水脈からは、《毒》は検出されませんでした」
「こちらのほうは、0.023%・・・ほぼ無害というところか」
ようやく足元が明るくなり始めた森の奥。
イエリテ殿と顔を見合わせ、安堵の息をつく。
試薬瓶にサンプルを投入した結果、悪くない数値が出ている。
《戦術毒》は中和された、と結論付けてもいいレベルだ。
もはや除染は必要無い。
というより、これ以上は中和剤の効果が期待出来ない。
あとはもう、自然的な自浄作用に任せるだけだ。
本当の『完全中和』まで数年かかるのが、残念ではあるが。
「蒔いた種が実るとは限らぬ。
しかし、大地を汚した報いは必ず返ってくる、ということか」
「ええ。
けれど、それを理解ってもらえるなら。
痛みを感じる者達がいるなら、未来はあるのでしょう。
そう信じたいです」
粉砂糖のような雪が舞う中。
イエリテ殿が微笑み、こちらに身体を寄せる。
───いやいや。
───近い、近い。
何だ?
どういう事だ、これは。
白兵戦の、超近接の間合いだぞ?
互いに一撃で息の根を止めるのが可能な、デッドゾーンだぞ?
「・・・イエリテ殿・・・」
「───こういう事は、お嫌いでしょうか」
「・・・え??」
「わたしはこれまで、誰かを好きになった事がありません。
心も体も許した事がありません」
「・・・・・・」
「でも、フォンダイトさん。
今日から明日へ、そして未来へと続いてゆくなら。
その道の上を、あなたと一緒に歩きたい、です。
そう思ってしまったら、いけませんか?」
「・・・・・・」
待て。
何か、とんでもない事を言われている!
普通の会話ではないぞ。
何故、水脈の確認から『こんな流れ』になるのだ?
まるで、その。
男女間の語らいではないか。
所謂、恋愛状況ではないか。
「イエリテ殿」
「──────」
彼女はぴったりと密着したまま、上目遣いで見つめている。
何らかの、私の返答を待っている様子だ。
これは。
上位資格を取得する際の、面接試験に似ている。
ここが、運命の分かれ道か。
無回答では済まされない。
少しでも発言しなければ、加点がない。
ゼロだ。
ゼロはマズい。
とても宜しくない。
ああ。
大臣達が、やや遠巻きにこちらを窺っているのが分かる。
私は今、物凄く期待されている。
こういう時、稀代の『モテ男』ならば、どう応えるのか。
全く思い付かないが、とにかく無言は駄目だ。
───さあどうする、フォンダイト!?
左腕に、柔らかな胸部の感触が当たっている。
そして、しっかりと固定されている!
もはや逃走不可能だぞ!?




