590話 スター誕生 01
【スター誕生】
(よし───04:30、丁度)
ベッドから身を起こし、深々と呼吸してから靴を履いた。
掛け物の中と室温との温度差は大きいが、苦ではない。
起き抜けからすでに茹だるような真夏より、余程ましだ。
冬の冷えた空気は、意識を覚醒に導く為の儀式、清めのようなもの。
寝袋以外で眠ったのは、久方振りだ。
それも、我等が独立国家の拠点ではなく、『同盟者』の集落内。
エルフから借り受けた、伝統的な家屋での一泊である。
うむ。
首尾は上々。
想定通りに物事が進み、恐いくらいの勢いだ。
『関係改善』という大目標に関して、これ以上の成果はなかろう。
我々と森の民は、一つになる必要がある。
必ずや手を結ばねばならぬ。
まずは、出会う事。
そして、忌憚無く対話する事。
同じ問題に取り組み、力を尽くし合って、信頼を得る。
寝食を共にすれば、次第に心が重なるだろう。
心が重なれば、更に。
更に。
その。
───脳裏に、一人のエルフ女性の姿が浮かび。
───フォンダイト・グロウ・フェネリは、慌てて首を振った。
(なっ、何を考えているのだ、私は!?)
違うぞ。
イエリテ殿はきっと、あれだ。
まともに会話出来る天使が珍しいのだ。
私に対して、若干の興味を感じているだけなのだ。
それを《好意》などと勘違いしてはいけない。
飛躍し過ぎる想像は、『未経験者』特有のもの。
大臣達の手前、あくまで自分は『モテる男』として振る舞わなくては。
元首としての沽券にかかわるではないか!
もう一度、深呼吸。
フォンダイトは自らに喝を入れるように、パン、と膝を叩いて。
それから、すっくと立ち上がった。
窓の外は夜の色、朝日が昇るのはもう少し先のようだ。
しかし、すぐに動かねばならない。
オーストラリアにおける除染作業は完了したが、まだ最終確認が残っている。
地脈、水脈が本来の形で、十全に機能しているかどうか。
それを判定するベストなタイミングが、《日の出》だ。
太陽光に照らされ、森が一気に活性化する瞬間のデータが欲しい。
その見極めの為の、泊まり込みなのだ。
寝間着から貫頭衣に着替え、防水防風のフィールドコートを羽織ると。
それを待っていたかのように、部屋のドアがノックされた。
「フォンダイトさん、起きていらっしゃいますか?」
聴こえた声の主は、先程懸想したばかりの相手。
「・・・ああ。お早う、イエリテ殿。
丁度今、支度が終わったところだ」
威厳の中にも意識的に親しみを混ぜた口調で、返答する。
「良く眠れた故、体調は万全だ。
本日の職務も、滞りなく終えてみせよう」
「ふふ。早速気合が入っていますね」
「いや、そう大したものでもない。
適切な時、適切に行動するだけの事。
森の案内を、宜しく頼む」
「はい。外でお待ちしています」
「了解した。大臣達と、すぐに出よう」
───さあ仕事だ。
───行くぞ、フォンダイト。
天界では常に指示を待ち、誰かの思惑通りに動くのみだった。
努力も、技能の向上も、他者を出し抜く為の一要素に過ぎなかった。
しかし、今は違う。
私は。
私と、部下と、『同盟者』の利益を目指して行動する。
知恵を絞る。
あの頃よりも背負う責任は格段に重いが、一向に構わない。
それこそ、我が望みである。
地上における《新勢力》。
その中心に、我は立ち続けるのだ。
燦然と煌めく、星のように。




