587話 命を大事に 06
射殺。
爆殺。
撲殺。
刺殺。
誰かの命を奪うのは、とても愉しい。
───だが、ミリアンの発砲回数自体は、それほど多くない。
銃なんて武器は、専用のものを使って狙撃でもしない限り、精度が低い。
それなりの技量があったところで、元からそういうものなのだ。
映画やゲームは嘘っぱちで、誇張にもほどがある。
威嚇射撃ではなく殺すのが目的なら、近距離まで接近しなければならない。
そして、それは相手からしても絶好の機会。
そこまできたらもう、飛び込んでいって動脈を掻き切ったほうがいい。
嬉しい。
自分なら、間違い無くそうする。
勿論、当たる場合には撃つ。
グッドな場所にヒットして、撃たれた奴が硬直する。
”そんな、嘘だろ?”、って顔をして。
何か最後に言おうとし、言えないまま崩れ落ちる。
そういうのが、大好きだ。
しかし。
当たらないのなら、意味が無い。
どれだけトリガーを引き絞っても、弾丸を無駄にするだけだ。
何より、殺せない作業なんか、やっていて面白くない。
死ぬ奴をさっさと殺し、次を探したい。
───目の前の相手は、死ぬのか。
───それとも、死なないのか。
ミリアンはその判断を、『霧』の有無で決めている。
ワイヤーフレームの人形が踊る世界。
そこに、微かな『霧』が映ることがある。
素敵に激しい戦場であればあるほど、それはウロウロしている。
そして、『霧』が後ろに立ったなら。
そいつは、必ず死ぬ。
”俺達が休暇を取らなきゃ、死神が過労死するぜ”
時々、そういう古臭いジョークを言う奴がいるが。
あの『霧』はまさに、死神以外の何者でもないだろう。
薄く煙る『霧』に、《数値》は付いていない。
一番近くに居る奴のそれを、ゼロにして消えてゆくだけだ。
別に、恐ろしいとも思わない。
どいつもこいつも、ただのゴミ。
ダース単位に纏めたって、ロクな値段にならない奴等だ。
そういうのが死んで、『霧』が中身を引っ張ってゆく。
自分には、関係の無い現象だ。
どうせなら死体も綺麗に片付けりゃいいのに、と。
それくらいの感情しか湧き上がらない。
───そんなミリアン・ベイガーが、歩いているのは。
───いつまでも同じ区画を、ぐるぐると回っているのは。
『霧』などより、よっぽど『恐いもの』がいるからだ。
それが今、自分の後ろに張り付いているからだ。
(嘘でしょ)
(何で、あたしが)
奥歯を食いしばり、唇を引き結び。
いつもより騒々しい、もはや滑稽なほどの靴音を響かせて歩く。
歩く。
(誰か)
(誰か、気付いて───お願い)
しかし、彼女に声を掛ける者はいない。
全てが無情に通り過ぎ、視線が合うこともない。
(誰か)
いつもと同じ世界の中で。
いつもと違うのは、彼女だけだった。




