表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
589/742

587話 命を大事に 06



射殺。

爆殺。

撲殺。

刺殺。


誰かの命を奪うのは、とても(たの)しい。



───だが、ミリアンの発砲回数自体は、それほど多くない。



銃なんて武器は、専用のものを使って狙撃でもしない限り、精度が低い。

それなりの技量があったところで、元からそういうものなのだ。


映画やゲームは嘘っぱちで、誇張にもほどがある。

威嚇射撃ではなく殺すのが目的なら、近距離まで接近しなければならない。

そして、それは相手からしても絶好の機会。


そこまできたらもう、飛び込んでいって動脈を()き切ったほうがいい。

嬉しい。

自分なら、間違い無くそうする。


勿論、当たる場合には撃つ。

グッドな場所にヒットして、撃たれた奴が硬直する。

”そんな、嘘だろ?”、って顔をして。

何か最後に言おうとし、言えないまま崩れ落ちる。


そういうのが、大好きだ。


しかし。

当たらないのなら、意味が無い。

どれだけトリガーを引き絞っても、弾丸(たま)を無駄にするだけだ。

何より、殺せない作業なんか、やっていて面白くない。


死ぬ奴をさっさと殺し、次を探したい。



───目の前の相手は、死ぬのか。


───それとも、死なないのか。



ミリアンはその判断を、『霧』の有無で決めている。


ワイヤーフレームの人形が踊る世界。

そこに、(かす)かな『霧』が映ることがある。


素敵に激しい戦場であればあるほど、それはウロウロしている。


そして、『霧』が後ろに立ったなら。

そいつは、必ず死ぬ。


”俺達が休暇を取らなきゃ、死神が過労死するぜ”


時々、そういう古臭いジョークを言う奴がいるが。

あの『霧』はまさに、死神以外の何者でもないだろう。



薄く煙る『霧』に、《数値》は付いていない。

一番近くに居る奴のそれを、ゼロにして消えてゆくだけだ。

別に、恐ろしいとも思わない。

どいつもこいつも、ただのゴミ。

ダース単位に(まと)めたって、ロクな値段にならない奴等だ。


そういうのが死んで、『霧』が中身を引っ張ってゆく。


自分には、関係の無い現象だ。

どうせなら死体も綺麗に片付けりゃいいのに、と。

それくらいの感情しか湧き上がらない。



───そんなミリアン・ベイガーが、歩いているのは。


───いつまでも同じ区画(ところ)を、ぐるぐると回っているのは。



『霧』などより、よっぽど『恐いもの』がいるからだ。

それが今、自分の後ろに張り付いているからだ。



(嘘でしょ)

(何で、あたしが)



奥歯を食いしばり、唇を引き結び。

いつもより騒々しい、もはや滑稽なほどの靴音を響かせて歩く。


歩く。



(誰か)

(誰か、気付いて───お願い)



しかし、彼女に声を掛ける者はいない。

全てが無情に通り過ぎ、視線が合うこともない。



(誰か)



いつもと同じ世界(けしき)の中で。


いつもと違うのは、彼女だけだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ