586話 命を大事に 05
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北館と東館を繋ぐ、長い通路を進んでゆく。
ベージュとブラウンのドットパターンを施した、都市迷彩。
その上に羽織り、ベルトを締めないままのバトルジャケット。
こんな軍人もどきの制服でも、遠慮は必要無い。
この区画は、『裏側』の人間しか居ない。
おまけに自分は、最高の嫌われ者。
ブーツの足音高く『ド真ん中』を歩けば、他者は勝手に避けるだけ。
────ミリアン・ベイガーは、擦れ違う者達を『見ていない』。
────認識はしているが、『見ようとはしていない』。
それらが怯えていようが、笑っていようが、表情などに意味を感じない。
動きさえ分かっていれば、十分だ。
視界の中を、ワイヤーフレームの人型が動いている。
そこに、脅威の度合いを示す《数値》が貼り付いている。
小数点を割っているのは、事務屋だ。
ぴったり《1》なのが、後方支援の部隊員。
それより少し上が、初年度の新米共。
《2》を超えたあたりが、多少の実戦経験をこなした連中だが。
どれもこれも、ゴミでしかない。
今はゴミ箱に叩き込まれていないだけで、元から価値は無いゴミ屑達。
こいつらは、どれだけ汗水垂らして努力しようと、呆気なく死ぬ。
向上心の有る無しに関わらない。
何年生き残っていようが、自慢にもならない。
ある日突然、泥人形がボロリ、と崩れる如く。
熟れ過ぎた果実が、べちゃり、と落下するように。
あっさりと死ぬ。
息をしなくなる。
─── ミリアン・ベイガーは、視界に入る《それら》が嫌だった。
───面倒で、面白くなくて、本当は口もききたくない程だった。
”決して殺してはいけない”、と。
頭のおかしい爺様達から、しつこく頼まれているが故に。




