580話 道が途絶えた後に 02
「あのね、お母さん」
「なあに」
「最近はさ、悪質な強盗とか、流行ってるじゃん?」
「そうね。TVでそういうのをやっていたわね」
「ウチは、あたしもお姉ちゃんも、出て行ってるし。
お父さんだって、滅多と帰らないし。
戸建ては狙われ易いからさ。
『ちゃんとしたセキュリティ』、必要じゃないかなー、って」
「───────」
「いや、お母さんなら大丈夫だとは思うよ?
でも、やっぱりね、やれるだけはやって・・・おくべき、だと」
私の顔色を伺いながら、次第に薫の声が小さくなってゆく。
この子は、私が強盗に襲われるなどと、本気で考えているわけではない。
そんなものから脅威を受ける存在ではない、と分かっている。
けれど、その上で『心配』なのだ。
出来る事をしたい、と望んでいる。
───要は、《屋敷の犬》か。
どれだけ監視カメラとセンサーを備え、多数の警備員を配置しても。
《犬》は、自分の力で屋敷を守りたい。
《優秀な犬》であればあるほど、そういった思いが強いのだろう。
それならば。
「確かに、そうね」
「!」
「けれど、物々しい機械を取り付けるのは好きじゃないわ。
だから、薫の『魔法』で何とか出来ないかしら?」
「うん、出来る!出来るよ!
あたしがバッチリ、組んであげるから!」
「じゃあ、お願いするわね」
「分かった!」
ほら、予想通り。
千切れんばかりに尻尾を振ってはしゃぐ、健気な子。
少し前の私であれば、”別に要らない”の一言で終わらせただろう。
そして、こんなに嬉しそうな表情を眺めることもなかった筈。
でもね、薫。
あなたがどんなに優れたワンちゃんで、その上、魔法使いであろうと。
───この世には強盗よりも、『私よりも』恐ろしいものがあるの。
昔々の、哀れな《異能者》よ。
誰からも理解されず見捨てられた、《予言の娘》よ。
昨夜、最後の『船』が沈んで。
乗員は全て、息絶えた。
もはや因果とも呼べない、遥かな時間の果てにではあるけれど。
お前を乗せなかった船は、等しく海の藻屑となった。
奇しくもあの《呪いじみた予言》が、『本当になった』わ。
これで『船』は、全隻喪失。
管理官以外が外へ出る、正規の方法は無くなった。
どうして彼等は、理解出来なかったのか。
何故、無条件に信じてしまったのか。
明日解体予定のビルに侵入し、エレベータを操作したところで。
それが正常に動く保証など、ありはしないのに。
地獄の魔王と、そのお友達。
XXィラーXXワルツや他星の《支配者達》が、『異世界遊び』に没頭しているが。
そんなものは、薄く重なった平行層への移動に過ぎない。
───この世界からは、誰も出られない。
───許可されていない。
それを捻じ曲げるべく私が力を尽くすのは、薫の為であるからだ。
他は一切、助けるつもりも理由も無い。
あの子が”どうしても持って行きたい玩具がある”、と泣くならば。
まあ、それくらいは特別に認めてもいいけれど。
顔の無い、魔法の先生だとか。




