578話 分岐点 04
「このまま進んでも、エルフはジリ貧です。
袋小路に追い込まれ、終わってしまう。
それは、分かっているんです」
力を込めているのか、組んだ指を震わせて呟くサリウフォルト。
こちらを見る顔付きは、真剣そのものだ。
「だから、オレらが。
《ダークエルフ》という名と姿で、実験します。
『抜け道』を探すんですよ。
エルフ本来の考えや生活の仕方を、少し変えて。
もしもの時には、《こっち》へ移行出来るように。
今の内にこういう事をやっておけば、もしかしたら」
「どうやろうと、結末は変わらぬ」
「族長!!」
「変わりはせぬわ」
「───おい。ちょっと待てよ、族長さんよ」
冷淡に断言された言葉に、我慢の限界を迎え。
思わず割り込んだ。
「すまんが一本、吸わせてもらうぜ?」
どうにも辛抱ならん!
同意を待たずにタバコを取り出し、火を点けて。
まずは深々と、肺の奥まで吸い込む。
一応は、携帯灰皿もテーブルに置いた。
「───あんた、前に乗せた時にも言ってたよな。
”どうせ、エルフは滅びるのだから”、って。
俺はな。
あれに少しも納得してねぇからな?」
「・・・アル坊・・・」
「大戦時の最後、北西部で何があったか。
どうやってエルフ達が、悪魔を逃してくれたか。
全部話してある筈だがな。
『あの命』は、無駄だったか?」
「・・・・・・」
「どうせ滅びる運命だから、いつ失っても良かったのか?
それくらいの、薄っぺらい価値だったのかよ?
なあ───どうなんだ?」
「・・・それは」
「俺はエルフが好きだし、人間が好きだ。
フラフラと遊び回ってきたから、他にも色んな種族に知り合いがいる。
それがみんな、公然と世に姿を現して付き合えたら。
手を取り合えたなら、どんなに嬉しい事か。
サリウフォルトが言ってんのは、それなんだよ。
そういう夢を実現するにはどうするかっていう、最初の一歩なんだよ。
俺は心から応援するぜ、こいつらのチャレンジをよ」
「───アルヴァレストさん!」
「若い奴が、知恵を絞って大真面目に難題へ取り組む。
そうやってる間は、簡単に滅びたりしねぇよ。
そうだろ?
俺なんかもな。
何をやろうとしたって、『無駄だ』『意味が無い』と散々に言われたクチだ。
あの頃、周囲の年配者が一名でもさ。
”ようし、やってみろ”
”心配するな、ケツは持ってやる”、って言ってくれてたら。
───今でも時々、そういうのを考えちまうんだよな」
「・・・・・・」
最後の煙を吐き切り、吸い殻を携帯灰皿に捩じ込む。
渋面の族長から、長い長い溜息が零された。
「・・・・・・《旅団長》、サリウフォルト『殿』。
もう一度、用件を伺おう」
弾かれたように立ち上がる、若きダークエルフ。
右足を一歩分、後ろへ引き。
左肩に両の手の平を載せる姿勢。
見守っていた他の者達も、それにならった。
独特なポーズだが、おそらく彼等の中では《正式な礼》を意味するのだろう。
「───感謝する、《白エルフ族長》、ライドック殿。
まずは、この森の北部を我等の居留地として認めていただきたい」
「・・・分かった。他には?」
「可及的速やかに、自給自足の体制を整えるつもりではあるが。
それが完成するまで、当面の食料援助をお願いできるだろうか?」
「よかろう。
ただし、家族にはきちんと事情を話しておくようにな」
「───ああ、承知した。
それとだな。
只今、冬も真っ盛りであり、果実の一つも無い。
森の資源だけでは、十分な糖分が補給不可能だ。
毎食後及び、15時のデザート等。
コンテナで届く美味しいものは、必ず我等にも提供していただきたい」
「甘えん坊か!!」
「甘えん坊だな」
そこは寸分狂わず、俺も族長と同意見だった。




