577話 分岐点 03
「オレはね。
この先、ダークエルフという身分が必要になってくる、と思うんですよ」
「『身分』??」
「ええ。
最近の、人間達の動向を調べているとですね。
某国なんか、情報開示やら何やらで色々と『調整』しているようで。
誰が何を言おうが、あれほど”UFOなど存在しない”、ってスタンスだったのが。
今はもう、”不可思議な飛行物体の目撃データもある”、に変わってきた。
これって、いずれは公認する為の布石だともとれるでしょう?
50年後か、100年後。
地球外生命体と、その技術を受け入れる日が来るかもしれない」
「まあ、そうかもな」
「・・・・・・」
「だとしたら。
そこがエルフにとっても、ターニングポイントなんです。
”エルフという種族が、この世に居る”、と。
人間社会に対してカミングアウトする、絶好の機会だと思うんです」
───おお!
まさか、そうくるとは!
《エルフを人間公認にする》。
よく思い付いたもんだ。
これは中々、衝撃的だぞ!
「それで・・・その時に、ですね。
”実は地球上には、それなりの数のエルフが居るけれど”
”ダークエルフは人間の勝手な創作物であり、存在していない”
これだとちょっと、おかしくありませんか?」
「・・・そんなもの、最初からおりはせんのだから、正直に言えば良かろうが」
族長が、嫌そうに口を挟む。
聞きたくもない話だが、黙っているのも腹が立つ。
そういう心情が、ありありと見てとれる表情だ。
「いやいや、それはマズいでしょう。
人間達には、エルフとダークエルフ、まあシャドーエルフとも言いますけど。
ほぼ一組みで、名が通っているんですよ。
”片方だけ本当で、もう片方は嘘”じゃあ、不自然なんです。
それが事実であったとしても、おかしく聞こえるんです。
さっきの話を例にするとですね。
”UFOは軍が開発した秘密機体として実在する”が、”宇宙人は居ない”。
そう説明されたら、メチャクチャ嘘臭くありません?」
「・・・それは・・・まあ、そうかもしれんが・・・」
「だから、ですね。
ダークエルフは、居てもいい。
むしろ、居たほうが都合がいいんです。
エルフ族の、これから先の可能性の為にも」
「お?」
「それは、どういう事だ?何を考えておる、コルツェン」
「だからー。サリウフォルトですって。
いい加減に憶えましょうよ!
・・・ええと。
それで、何の目的でオレらが《ダークエルフ》をやるか、なんですけども」
ぐびり、と音を立ててホウジ茶を飲み。
コルツェン改め、サリウフォルトが続ける。
「エルフから分かれて独自進化した、《ダークエルフ》。
エルフを参考にしながら、細かい部分を変えたり。
密かに、何故か同じな部分も入れてみたり。
そうやって、これから作り込んでゆくんですけどね。
これ、エルフであるオレらが演じる以上、限界があります。
エルフに出来ない事は、ダークエルフにだって出来やしない。
そういう、目には見えない『縛り』があるんです。
けれど、逆に言えば」
「その《ダークエルフ》は、エルフが真似できる、って事か」
「そうです!!
それなんですよ、アルヴァレストさん!!」
俺の発言に、パン!、と手を打つサリウフォルト。
族長宅にギュウギュウ詰めの、《ダークエルフ旅団》。
光の屈折率を操作して肌の色を変えた連中からも、喝采が起こった。
ふふん。
この程度は、理解出来て当然だ。
何しろ俺は、大戦の遥か前からエルフ族と懇意にしてきたドラゴン。
特にこの、『リトアニア在住なエルフ』に関しては。
嫌になるくらい背中に乗せた、因縁の間柄だしな!




